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第102話 新しい日常

 旅が終わり、また日常がやってくる。

 私は新しい部署に移るし、家では猫をひきとる事にもなっている。

 土曜日の夜一緒に寝たけど、日曜日は旅に疲れていたためすぐに寝てしまった。

 そして迎えた二月三日月曜日。

 今日から新しい部署になるということで、私は緊張しながらこの間までとは違うフロアへと向かう。

 広報かぁ。

 どんなことをやるのかって漠然としか知らないけど大丈夫かなぁ。

 うちの会社で作っている映画などの広告作成などが主な仕事なはずだけど、広告デザインの他、イラストレーターを探して依頼することもあるらしい。

 それにこういう映画を撮るからどうですか、と説明するのにイラストを使うことがあるらしいんだけど、その為のイラストの用意をすることもあると聞いた。

 以前、湊君に頼んだのもそういうものだったらしいし。

 広報って色んなことやるんだなぁ。

 それにSNSやホームページの運用もしているからすることけっこうあるみたいだ。

 ちなみに私が所属するのはデジタル広報課だ。何をするのかは詳しく聞いていない。

 人事の人には、ネット関係、としか言われなかったのよね。

 初日、ということもあり私は皆の前で挨拶することになる。


「今日からお世話になります、森崎灯里です。よろしくお願いいたします」


 課には五人。この中のふたりが一度に辞めてしまうのはたしかに痛手よね。

 広報部は他にメディア対策課に広告製作課もあってそちらの方が人数は多いけれど、人の余裕がないらしい。


「よろしくお願いします。急にごめんなさいねー」


 と、申し訳なさそうに言ったのは、長い黒髪を後ろで縛った一重の美人、成田みさとさんだ。


「もうひとりは今撮影に出かけていてちょっといないの」


 と、苦笑いしながら言う。


「撮影、ですか?」


 いったい何の撮影だろう。不思議に思い尋ねると、成田さんは笑って頷き言った。 


「そうなの。私達がやっているのはソーシャルメディアの運営なのよね」


 ……今、私はなんて言われた?

 ソーシャルメディアの運営って……

 なにか呟く的なやつ? 画像とかショート動画とかあげちゃう系ってこと?

 あぁ、だから撮影に出かけてるの?

 ぐるぐると考えていると、成田さんは胸に手を当てつつ言った。


「私たちは主にSNSの中の人やってるの。だからね、貴方にはそれを引き継いでもらうことになるんだけど、若いし、大丈夫よね」


 にこやかに言われて、私はひきつった笑いを浮かべつつ何とか頷いた。

 私だってSNSのアカウントをいくつか持っている。

 でも持っているだけであまり使っていない。

 大学生の時は連絡手段のひとつとして使っていたけど、就職してからはすっかり同期生たちとは疎遠になってしまったし、すっかり見る専になっている。しかも会社のSNSを見たことが一度もない。


「あと、社内広報の作成もあるのよね。それは他の課の人と合同だけど数人でやってて。それとSNSの反響をまとめるのも仕事なの」


 社内広報……行事のお知らせとか新年の社長の講和とか載るやつよね。あんまり真面目にみたことないけど、ペット自慢とかも載っていたような。


「けっこうすることあるんですね」


「そうねぇ。いつもなにかしらしている感じなのよね。SNSの活用は会社のイメージアップにもなるし、けっこう重大なのよ。地方の会社でもバズってフォロワー何万人とかあるし」


 確かにそういう話は聞く。そしてフォロワーの数は拡散力に比例するものね。

 人気の公式アカウントって、日常の小ネタとかツイートしていたりするイメージがある。


「ところで、会社のSNSは見たことある?」


 恐れていた質問をぶつけられ、私は苦笑して首を振りつつ答えた。


「す、すみません……ない、です」


 そう答えると、成田さんはあはは、と笑いながら言った。


「そうよねー。私も任されるまで見たことなかったのよー。フォロワーも少なくて。今はやっと一万人くらいかなぁ。チケットプレゼントとか時々やるんだけどね、そういう時は増えるんだけど、終わると減るのよね。フォロワー数を維持するのがけっこう大変で」


「そ、それってけっこう責任重大じゃないですか?」


 ちょっとしたことで炎上しちゃうし、怖くないかな。

 すると成田さんは腕を組み、そうねえ、と呟いた。


「会社の魅力をアピールしつつ、世の中にある映画やドラマの宣伝したりするの楽しいわよ。そこから映画館に足を運んでもらったり、ドラマを見てもらえたら万々歳よ」


「映画館って、最近あんまり行かなくなりましたね。サブスクで見られちゃいますし」


 最近、配信されるの早いもんね。

 下手すると映画館での上映期間が終わる前に配信が始まることがあるし。

 好きな時間に見られるからサブスクで見る機会の方が多くなってしまった。


「でしょう? でも映画はやっぱり興行収入が大事だし、ドラマだって未だに視聴率重視のところがあるのよね。サブスクでの順位もだいぶ重視されるようにはなったけど」


 でしょうね。それはわかる。

 サブスクでの再生数の話題はあまり見かけないけど、興行収入や視聴率の話題はよく見かけるし、社内広報でも言われているから。


「だから映画館で映画を見る魅力を伝えたりもするのよ。実際に映画館に行ってどうだったかもSNSに書いたりしているし」


 そう言われるとすごく楽しそうに思えてきた。映画館で見る魅力かぁ。視界いっぱいに広がる画面、全身で音を感じられるから、映画館は特別よね。

 ただ普通に見ようとすると二千円近くかかるから、敬遠するのも理解できる。

 それを乗り越えてでも見に行きたいように思えるような情報を書くのって厳しそう。

 私にうまく文章書けるかなぁ。あとで会社のSNS、チェックしよう。


「まず、一日の業務を教えるので、よろしくね」


 と言い、成田さんは手を差し出してきたので、私も手をだしてその手を掴む。


「はい、よろしくお願いします」


 そして私の新しい仕事が始まった。



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