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第101話 いつもと同じいつもと違う朝

 お酒を飲んでいい気分で部屋に戻ると、時刻は十一時近かった。

 うーん、ふわふわする感じ。普段家で飲むお酒とは違うんだなぁ。

 カクテルを三杯飲んだだけだけど、カクテルってアルコール度数、高いんだっけ。

 明らかに酔っている私とは対照的に、湊君はそんなに酔っている風ではない。

 彼はソファーに腰かけてタブレットを開き、何かしているみたいだった。ペンを持っているから絵を描いているのかな。

 私は歯を磨いて着替えようか。一冊だけ本を持って来ているから、それをベッドで読もう。

 そう思って洗面所に向かった。歯磨きをして、私はソファーに腰かける彼に声をかける。


「私、着替えて寝室行くねー」


 欠伸をしつつぼうっとした声で言うと、彼はびくっとして顔を上げ、私の方を見てぎこちなく笑う。


「あ、うん、わかった」


 そして湊君はタブレットをテーブルに置いた。

 これは湊君も寝るのかなー。

 そんなことをぼんやりと考えながら寝室に入り、私はホテルに備え付けられている寝間着に着替えた。

 枕元の明かりだけがついて、寝室は薄暗い。

 着替えた私はベッドに向かうと、ドアが開く音がした。

 あ、湊君も寝るのかー。まあそうだよね。色々と行って疲れたし。

 そう思ってベッドに入ろうとした時、湊君の声がかかった。


「ねえ、灯里」


 どきっとして振り返ろうとしたとき、その背中に近づく気配があって、ふわり、と後ろから抱きしめられてしまう。

 うわぁ……こんなことされたの初めてだ。

 やだもう、すごくどきどきするんだけど?

 下半身に嫌でも意識がいってしまい、私は恥ずかしさに下を俯いた。


「え、あ……」


「もっとちゃんと色々と決めておけばよかったなって、今さらだけど思ったよ。契約をしたときはそこまで深く考えていなかったし、そこまで興味も持てないって思っていたから」


 そ、そうなんだ。

 まあ私も契約上の関係だしな、と思って深く考えていなかった。それは今さらながら反省している。


「でもいろいろあって、君のために考えて行動して、今は一緒に暮らすようになって。離れるのが怖くなっちゃった」


 言いながらぎゅうっと私の身体を抱きしめてくる。

 あぁ、だから私が引っ越そうかなってことを言った時、嫌がったのか。


「ねえ灯里。もっと俺、灯里のこと知りたい。でも嫌がることはしないって約束だから我慢してきた。ホテル行くのは嫌がっていたし」


「そ、そりゃぁ……付き合ってすぐホテルに行くのはなしだと思うから」


 言いながらも、私は緊張のせいか声が震えていることに気が付く。

 どうしようこれ。

 いや、こういうことになる覚悟はあるにはあるんだけれど、いざ直面すると頭が白くなってしまう。

 心臓がすごい音を立てていて、これ湊君に聞こえているんじゃないだろうか。

 顔も熱いし、私、何を言えばいいんだろう。


「そうだよね。だからそういうものだと思って今まできたけど、ねえ、灯里。もっと触りたい。もっと、君のこと知りたい」


 湊君の声が切なさと熱を帯びているような気がする。

 彼は私の耳もとに口づけてきて、私は思わず声を漏らした。


「あ……」


 く、くすぐったい。それにすごい変な感じする。

 何か言わないと、何か……今感じている事、思っていることを言葉にしないと。

 私は迷いつつ、ゆっくりと右手を上げて私を抱きしめる腕に触れる。


「わ、私は……その……」


 嫌じゃないけどこれどう伝えたらいいんだろう。

 お酒に酔っていたはずだけどそんなの吹っ飛んだ気がする。

 私はぎゅっと、湊君の腕を掴んで言った。


「私もその……もっと、知りたいな。湊、のこと」


 出た声は緊張のせいか震えていたけれど、気持ちはちょっと落ち着いたように思う。

 湊の手が私の肩にかかりそして振り返させられたかと思うと、唇が重なった。

 ただ触れるだけじゃない、舌が絡まるキス。

 すぐに息があがってしまい、私は湊の背中に回す腕に力を込める。

 角度を変えて口づけられ、離れたとき私は大きく息をついた。

 すると湊は、満足そうに微笑み言った。


「すごく色っぽい顔」


 そして私の頬に触れる。


「おいで」


 と言って、彼は私の手を掴むとベッドへと誘った。




 朝が来た。

 いつもと同じで、だけど違う朝が。

 目が覚めると湊の顔が目の前にあって、驚き私は思わずがばっと起き上がってしまう。

 そして室内がまだ暗いことから明け方がまだであると気が付き、裸で寝ていたことにも気が付いて、私はすぐに布団の中に戻った。

 湊はうっすらと目を開き、眠そうな顔で微笑み言った。


「おはよー、灯里」


 言いながら私の背中に手を回してきたかと思うと、ぎゅうっと抱きしめてくる。

 ちょっと、裸同士じゃないの、私たち。

 いろいろと当たるんだけど?


「おはようって、起きる気ないでしょ」


「うん、まだこうしていたい」


 でしょうね。でも私、裸で寝てることや一緒に寝ている、っていう事実で眠気、吹っ飛んじゃったよ。

 今何時かなぁ……うーん、このベッド私が使う予定のベッドじゃなかったから、スマホが近くにない。

 ベッドはくっついているけど、掛布団はふたつに分かれているから狭い中、一緒に寝たんだよね。

 私の背中側に私が使うはずだったベッドがあるから、スマホに手、届くかなぁ。

 そう思って私は無理やり振り返り、スマホを探す。

 そして、充電器ケーブルに刺さったスマホを見つけ、ケーブルを外してロックを解除する。

 時刻は四時すぎ。夜明けはまだ先だろう。

 これ、しばらくこのままなのかな。

 朝ごはんて何時からだっけ。六時半くらいだっけな。起きるのにはまだ早すぎるし、どうしようかな……

 朝食の前にお風呂、入ってきたいなぁ。

 私は湊の方を向きつつ言った。


「ねえ、私、温泉行きたい」


 すると湊はうっすらと目を開き、小さく首を傾げた。


「えー……うーん……もっとこうしてから」


 なんて言って、私を抱きしめる腕に力を込めてくる。


「じゃあ、六時になったら行くからね」


「うーん……」


 わかっているのかいないのか、よくわからない返事をした湊をよそに、私はスマホのアラームを六時前にセットした。






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