お酒を飲んでいい気分で部屋に戻ると、時刻は十一時近かった。
うーん、ふわふわする感じ。普段家で飲むお酒とは違うんだなぁ。
カクテルを三杯飲んだだけだけど、カクテルってアルコール度数、高いんだっけ。
明らかに酔っている私とは対照的に、湊君はそんなに酔っている風ではない。
彼はソファーに腰かけてタブレットを開き、何かしているみたいだった。ペンを持っているから絵を描いているのかな。
私は歯を磨いて着替えようか。一冊だけ本を持って来ているから、それをベッドで読もう。
そう思って洗面所に向かった。歯磨きをして、私はソファーに腰かける彼に声をかける。
「私、着替えて寝室行くねー」
欠伸をしつつぼうっとした声で言うと、彼はびくっとして顔を上げ、私の方を見てぎこちなく笑う。
「あ、うん、わかった」
そして湊君はタブレットをテーブルに置いた。
これは湊君も寝るのかなー。
そんなことをぼんやりと考えながら寝室に入り、私はホテルに備え付けられている寝間着に着替えた。
枕元の明かりだけがついて、寝室は薄暗い。
着替えた私はベッドに向かうと、ドアが開く音がした。
あ、湊君も寝るのかー。まあそうだよね。色々と行って疲れたし。
そう思ってベッドに入ろうとした時、湊君の声がかかった。
「ねえ、灯里」
どきっとして振り返ろうとしたとき、その背中に近づく気配があって、ふわり、と後ろから抱きしめられてしまう。
うわぁ……こんなことされたの初めてだ。
やだもう、すごくどきどきするんだけど?
下半身に嫌でも意識がいってしまい、私は恥ずかしさに下を俯いた。
「え、あ……」
「もっとちゃんと色々と決めておけばよかったなって、今さらだけど思ったよ。契約をしたときはそこまで深く考えていなかったし、そこまで興味も持てないって思っていたから」
そ、そうなんだ。
まあ私も契約上の関係だしな、と思って深く考えていなかった。それは今さらながら反省している。
「でもいろいろあって、君のために考えて行動して、今は一緒に暮らすようになって。離れるのが怖くなっちゃった」
言いながらぎゅうっと私の身体を抱きしめてくる。
あぁ、だから私が引っ越そうかなってことを言った時、嫌がったのか。
「ねえ灯里。もっと俺、灯里のこと知りたい。でも嫌がることはしないって約束だから我慢してきた。ホテル行くのは嫌がっていたし」
「そ、そりゃぁ……付き合ってすぐホテルに行くのはなしだと思うから」
言いながらも、私は緊張のせいか声が震えていることに気が付く。
どうしようこれ。
いや、こういうことになる覚悟はあるにはあるんだけれど、いざ直面すると頭が白くなってしまう。
心臓がすごい音を立てていて、これ湊君に聞こえているんじゃないだろうか。
顔も熱いし、私、何を言えばいいんだろう。
「そうだよね。だからそういうものだと思って今まできたけど、ねえ、灯里。もっと触りたい。もっと、君のこと知りたい」
湊君の声が切なさと熱を帯びているような気がする。
彼は私の耳もとに口づけてきて、私は思わず声を漏らした。
「あ……」
く、くすぐったい。それにすごい変な感じする。
何か言わないと、何か……今感じている事、思っていることを言葉にしないと。
私は迷いつつ、ゆっくりと右手を上げて私を抱きしめる腕に触れる。
「わ、私は……その……」
嫌じゃないけどこれどう伝えたらいいんだろう。
お酒に酔っていたはずだけどそんなの吹っ飛んだ気がする。
私はぎゅっと、湊君の腕を掴んで言った。
「私もその……もっと、知りたいな。湊、のこと」
出た声は緊張のせいか震えていたけれど、気持ちはちょっと落ち着いたように思う。
湊の手が私の肩にかかりそして振り返させられたかと思うと、唇が重なった。
ただ触れるだけじゃない、舌が絡まるキス。
すぐに息があがってしまい、私は湊の背中に回す腕に力を込める。
角度を変えて口づけられ、離れたとき私は大きく息をついた。
すると湊は、満足そうに微笑み言った。
「すごく色っぽい顔」
そして私の頬に触れる。
「おいで」
と言って、彼は私の手を掴むとベッドへと誘った。
朝が来た。
いつもと同じで、だけど違う朝が。
目が覚めると湊の顔が目の前にあって、驚き私は思わずがばっと起き上がってしまう。
そして室内がまだ暗いことから明け方がまだであると気が付き、裸で寝ていたことにも気が付いて、私はすぐに布団の中に戻った。
湊はうっすらと目を開き、眠そうな顔で微笑み言った。
「おはよー、灯里」
言いながら私の背中に手を回してきたかと思うと、ぎゅうっと抱きしめてくる。
ちょっと、裸同士じゃないの、私たち。
いろいろと当たるんだけど?
「おはようって、起きる気ないでしょ」
「うん、まだこうしていたい」
でしょうね。でも私、裸で寝てることや一緒に寝ている、っていう事実で眠気、吹っ飛んじゃったよ。
今何時かなぁ……うーん、このベッド私が使う予定のベッドじゃなかったから、スマホが近くにない。
ベッドはくっついているけど、掛布団はふたつに分かれているから狭い中、一緒に寝たんだよね。
私の背中側に私が使うはずだったベッドがあるから、スマホに手、届くかなぁ。
そう思って私は無理やり振り返り、スマホを探す。
そして、充電器ケーブルに刺さったスマホを見つけ、ケーブルを外してロックを解除する。
時刻は四時すぎ。夜明けはまだ先だろう。
これ、しばらくこのままなのかな。
朝ごはんて何時からだっけ。六時半くらいだっけな。起きるのにはまだ早すぎるし、どうしようかな……
朝食の前にお風呂、入ってきたいなぁ。
私は湊の方を向きつつ言った。
「ねえ、私、温泉行きたい」
すると湊はうっすらと目を開き、小さく首を傾げた。
「えー……うーん……もっとこうしてから」
なんて言って、私を抱きしめる腕に力を込めてくる。
「じゃあ、六時になったら行くからね」
「うーん……」
わかっているのかいないのか、よくわからない返事をした湊をよそに、私はスマホのアラームを六時前にセットした。