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第99話 温泉

 温泉に入ったのは久しぶりだった。

 私たちが住む町にも、少し車で行けば温泉地があるけれど行かないんだよね。

 露天風呂からも内湯からも海が見えて、ちょうど夕暮れの時間で水平線に太陽が沈もうとしているのが見られたのは、ちょっと感動だったなぁ。

 夕焼け目当てなのか、お客さんが思ったよりも多かったけど、そこまで気になるほどではなかったのはよかった。

 お風呂を出て着替え、待ち合わせ場所に向かい一緒にホテルへと戻った。




 夕食のあと、今度はホテルの温泉に行く。

 ホテルのお風呂は上の階にある展望風呂と、一階の露天風呂とある。

 私たちは上の階の展望風呂に向かい、そこで夜空をみつつお風呂を楽しんだ。

 海が暗いから、空の星がたくさん見えるんだなぁ。

 冬の星座、そんなに知らないけど、たくさん見えてどれをどうしたら星座になるのか全然わからなかった。

 そして部屋に戻り、私は現実と直面する。

 並びあうベッド。ふたつのベッド。間には隙間がなくてくっついている。

 ベッドの距離を気にしても仕方ないことはわかっているし、そもそも一緒に住んでるじゃないの。

 いまさら意識することじゃない。

 そんなことはわかっている。

 でも。

 改めてみると恥ずかしい。

 リビングと寝室が別れているとはいえ、さすがにソファーで寝るわけにもいかないし……並ぶベッドで寝るしかないよね。

 湊君はまだ温泉から戻ってきていない。お風呂をでていなかったら先に戻っていていい、といわれたからひとりで戻って来たけど……時間はまだ夜の九時前だ。寝るには早すぎる。

 どうしよう。

 私の頭の中に、以前酔っぱらった湊君に言われた言葉が蘇る。


『いっしょに寝たい』


 そう言われた物の、それっきり何事もなくうやむやなままだ。

 寝たい、というのが文字通りの意味なのか、それとも別の意味なのか。

 私はそういう経験、無いのよね。

 そもそもキスとかする前に皆豹変して、いざこざがあって別れちゃったから。

 するの、かな。

 いや、私だって大人だし、こうして同じ部屋で寝るわけだからそういう覚悟はなくはない。だけどどこか現実味を感じない。

 契約するとき、なんで話し合わなかったのか今となっては悔やまれる。

 湊君は肉体関係が普通で最初の頃はやたらとホテルに行きたがったっけ。でも私が嫌がるからそういう場所は避けてきたし、そういう話もしていない。

 キスはしたけど、それ以上の事は……

 あぁ、もう私どうしよう……

 寝室で文字通り頭を抱えていると、扉を開く音はして私はハッとして顔を上げた。

 ドアを開けてこちらを覗く湊君は、微笑み言った。


「ねえ、バーに行かない?」


「バー?」


 思ってもみなかった誘いの言葉に、私は頭から手を下ろして首を傾げた。

 すると彼は頷き言った。


「うん、最上階にあるんだって。九時からだそうだからどうかな、と思って。こんなことでもない限り行かないと思うし」


 確かに、一緒に暮らしているしわざわざ外にお酒を飲みに行くようなことしないもんね。

 私は頷いて彼に歩み寄りつつ答える。


「いくいく! ちょっと準備するから待ってて」


 バーって私、行ったことないのよね。

 だからちょっと興味ある。


「あ、うん、わかった」


 すると湊君は扉を閉めた。

 化粧はさすがにする気はないけど、髪の毛くらいちゃんとしたい。

 私は寝室にある鏡の前に立ち、ささっと髪の毛をとかした。

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