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第60話 買い物へ

 土曜日の朝。

 七時過ぎに起きた私は、顔を洗ってキッチンに向かう。

 ドアを開けると、


「にゃー」


 という鳴き声とともにどこからともなく黒猫が現れた。

 あれ、なんで猫……あぁ、そうだ、猫、預かってるんだった……

 私はその場にしゃがみ、黒猫のココの頭を撫でた。すると彼女は気持ちよさげに目を細める。


「おはよう、ココ」


 そして私はキッチンの方から物音がすることに気が付いた。

 あれ、何だろう? まだ朝の七時すぎなのに、湊君、起きてるの?

 驚き私は立ち上がってキッチンの方を見た。


「あれ、湊君おはよう」


 紺色の着古したTシャツ姿の湊君が超眠そうな顔をして、ガサゴソと何かしていた。

 珍しい、こんな時間に起きるなんて何かあったのかな。


「おはよー灯里ちゃん……」


 言いながら、湊君は大きなあくびをしている。

 どうやらココのお水をかえたり、エサを用意しているらしい。

 あぁそうか。その為に早起きしたのね。

 キッチンを覗き込むと、ココは湊君の足に顔を擦り寄せてエサが用意されるのを今か今かと期待の眼差しで見つめている。

 湊君は水とエサの入った容器をもってリビングに行くと、ココのゾーンとなった部屋の隅に置いてある台の上に容器を置いた。

 そして水をセットして給水器の電源を入れる。

 カリカリとご飯を食べ始めるココをしばらく見たあと、湊君は寝室の方へと消えていった。

 言ってくれれば私が用意したのに。

 あれかな、自分でやりたかったのかな。

 そう思いつつ私は自分のご飯の用意をしようと、キッチンに向かった。


 午前十時半。私は、駅前にあるショッピングモールのアクセサリーショップで、うなり声をあげていた。


「うーん……」


 どうしよう。どれにしよう。

 私はショーケースを見つめてあれこれ考えていた。

 湊君の誕生日まであと少し。

 私は彼の誕生日プレゼントを買いに来たわけだけど。

 いっぱいあるよね、ペアのネックレス。スマホで調べてもどれがいいのかわからなかったから直接見に来た。

 どれがいいかわからない……


「何かお探しですか?」


 声をかけられてびくぅ! となった私は、おそるおそる顔を上げる。

 そこにいたのは私より少し上と思われる、茶髪の女性店員さんだった。ニコニコと笑い近づいてきた彼女は、私が見つめるショーケースを手で示して言った。


「ペアのアクセサリーをお探しですか?」


「え? あ、は、はい……まぁ……」


 言いながら私はひきつった笑いを浮かべる。

 両親がしていたペアのブレスレット。そんなに高いものじゃない、とお父さんは言っていた。

 でもお母さんがプレゼントしてくれたものだから、と言ってお父さんは亡くなる日までずっとしていたっけ。

 銀色の鎖の、シンプルなブレスレットだった。

 そんな両親へと憧れ、かな。私も両親みたいに想いあってみたいなぁ、っていう。

 でもペアは重いかな……

 うーん、悩むなぁ。

 湊君、学生の時はネックレスとかブレスレットとかしていたと思うんだよね。最近はしていたっけな。香水はしてると思うんだけど。家にいる時ネックレスしないもんね……

 どういうのがいいのかな、好みがよくわかんないのよね。


「ペアのネックレスでしたらそうですね、色々とデザインがありますが」


 そうなのよ。

 同じ形の大きさ違いとか、組み合わせるとひとつの図形になるとか、いろいろとあるのよね。

 だから私、決められないしペアでいいのかっていう根本的な部分で悩んでる。

 いや、でも私、ペアのアクセサリーにしよう、って決めたじゃないの。どちらかというと私が欲しい物みたいだけど。

 でもエプロンも買うって決めたし。だから別にいいよね。何がいいのかはよくわからないけど。


「こちらの白猫と黒猫を組み合わせたネックレスも可愛いですよ」


 店員さんがすすめてきたのは、二匹の猫が丸くなって眠っているモチーフのネックレスだった。

 店員さんがモチーフを外し、ふたつに分ける。

 あー組み合わせるとひとつのモチーフになるやついいなぁ……

 今猫を預かっているからか、猫にすごく心惹かれる。


「こちらの月と太陽のモチーフもいいかと思いますよ」


 そうお姉さんが次々にアクセサリーをショーケースからだして見せてくれる。

 値段も一万円弱からあって、天然石や宝石があしらわれているものもある。他にダイヤモンドが使われているものがあって、それはさすがに高い。

 アレルギーフリーのアクセサリーもあるのね。いいなぁ。どれも気になる。

 とりあえず予算的なこと考えると二万円前後のかなぁ。

 そもそもひとつは私が身に着けるわけだし、それくらいが妥当よね。あんまり高いと重いかな、って思うし。

 猫、可愛いなぁ。でも太陽と月のモチーフもいいな。


「お相手の方のイメージに合わせて選ぶのもよろしいかと思いますよ」


 呻りながら悩んでいると、店員さんがそう声をかけてくれる。


「イメージかぁ……」


 私は湊君の顔を思い浮かべた。

 何考えているのかわかんなくって、ストーカーから助けてくれて行動力あって。

 どこか影があって、何かいろいろあったみたいだけど。

 そう考えると太陽より月、よね。なんかこう、優しく導いてくれるような。

 私は月と星のモチーフのついたネックレスを見る。

 三日月に青い天然石がついているモチーフと、円形に星のマークがついてその中央に青い天然石がついているモチーフを組み合わせてひとつになるものだ。

 これがいいなぁ……

 値段も、一万五千円ほどなのでちょうどいい。説明にはアレルギーフリーの金属がつかわれている、と書かれている。


「あの、この月と星のやつください」


「はい、かしこまりました。プレゼント用ですか?」


「あ、は、はい」


 頷き答えると店員さんは、


「かしこまりました」


 と言い、ネックレスを持ってカウンターの中に入っていった。

 青い包み紙に緑色のリボンをかけた箱。それを紙袋に入れてもらい私はアクセサリーショップを後にした。

 店員さんがお店の出口に見送りにくるの苦手なのよね、と思いつつ、私はデパートに向かう。

 エプロンを買ってラッピングしてもらい、ケーキの予約をしに行く。

 ケーキ、シンプルなのがいい、って言っていたからモンブランとかチーズケーキがいいかな。

 ふたりだしあんまり大きいのだと食べきれないだろうから……あ、チョコレートケーキもいいなぁ。

 ケーキ屋さんを見回りながらあれこれ考えて、私は五号のチョコレートケーキを注文して私はチェーンのカフェに寄り、カフェモカを買ってマンションへと帰った。


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