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第59話 夢から覚めて

 頭に何かが触れているような気がする。

 この感覚何だろう。

 懐かしい感じ……そうだ、お母さんに頭を撫でてもらった時に感じた……

 って、え?

 お母さんはいない。お父さんも。

 じゃあ誰が私の頭を撫でてるの……?

 あれ、夢はまだ続いているとか? これは夢なのか、それとも現実なんだろうか。頭がぼうっとしてはっきりしない。

 うーん、身体が重い。何かが上に乗っかっているような……

 何だろう、身体をふみふみされている感じがする。


「にゃー」


 あれ、猫の声がした?

 うちに猫なんていないのに……

 そう思って私はゆっくりと目を開ける。


「……あれ、ほら、起きちゃったよ、ココ」


 あ、この声……あぁ、そうだ。私は今、湊君と一緒に暮らしているんだっけ。


「にゃー」


「上に乗っかっていたら重いよ、ココ」


 その声と共に身体が急に軽くなる。

 私の、ぼんやりとした視界に湊君と黒猫が映った。

 あ、湊君、黒猫を抱っこしている……


「あれ、湊、君……?」


「ごめんね、起こしちゃって。灯里ちゃん、ソファーで寝ちゃったみたいで。それでココがその上に乗っかってさ。灯里ちゃんうなされ始めたから重いんだろうな、と思って今、どかしたんだ」


 あ、私、いつの間にかソファーで寝ちゃったのね。

 身体を起こして視線を巡らせると、テーブルの上に空き缶が置かれていた。

 それにテレビからは相変わらず静かな音楽が聞こえてくる。


「あー、ごめんね。部屋に戻るつもりだったんだけど……音楽と薄暗いせいか眠くなっちゃったみたい」


「あぁ、そうなんだ。いつもこの時間、俺ひとりだから気が付かなかった」


 そうよね、私がお風呂のあとにここでビール飲むなんて珍しいものね。いや、初めてか。


「そうだね。せっかくだからココとの交流、深めたくて」


 言いながら私は、湊君に確保されたココの頭を撫でた。すると気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らす。

 うーん、やっぱり可愛いなぁ。

 猫飼いたい……反対されても飼いたい……

 いや、反対しないだろうけれど。


「そのうち飼えたらいいなあ」


 という言葉が思わず漏れ出てしまう。

 夕食の時そんな話になったけど、やっぱりペットには心惹かれるのよね……

 でも無責任な飼い主にはなりたくないからな。慎重に考えないと。


「ココが乗ってたから重かったのね。もしかしてココ、私の頭とか触った?」


 そう問いかけてもココはただ、ゴロゴロと撫でられるだけだ。


「頭?」


 湊君は驚いた様子で言い、ぎゅっとココを抱きしめる。

 あれ、どうしたんだろう?

 疑問に思うけど私は夢の話を続けた。


「うん、お父さんとお母さんの夢みたんだけどね、私まだ子供で、夢の中でふたりに頭を撫でられたの。そのせいかわかんないんだけど誰かに頭を触られた気がして」


 気のせいかな?

 うーん、夢と現実の区別、ついてないかも。こんなこと、初めてだ。


「ああ、そうなんだ」


 そう呟いた湊君は俯いてしまい表情がよく見えない。

 なにか気になる事でもあるのかなぁ。


「何かあったの?」


「え? あ、ううん。なんでもないよ。もう一時だしここで寝てないで部屋に行った方がいいよ」


「あぁそうだねー」


 答えて私は大きな欠伸をしてしまう。

 うーん、眠い。ソファーで寝たせいか身体も痛い。


「湊君はまだお仕事あるの?」


「うん、まあ」


「そっか。がんばってね、じゃあお休み、湊君、ココ」


 私は手を振って立ち上がり、空き缶をゴミ箱に捨ててからリビングを出た。

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