頭に何かが触れているような気がする。
この感覚何だろう。
懐かしい感じ……そうだ、お母さんに頭を撫でてもらった時に感じた……
って、え?
お母さんはいない。お父さんも。
じゃあ誰が私の頭を撫でてるの……?
あれ、夢はまだ続いているとか? これは夢なのか、それとも現実なんだろうか。頭がぼうっとしてはっきりしない。
うーん、身体が重い。何かが上に乗っかっているような……
何だろう、身体をふみふみされている感じがする。
「にゃー」
あれ、猫の声がした?
うちに猫なんていないのに……
そう思って私はゆっくりと目を開ける。
「……あれ、ほら、起きちゃったよ、ココ」
あ、この声……あぁ、そうだ。私は今、湊君と一緒に暮らしているんだっけ。
「にゃー」
「上に乗っかっていたら重いよ、ココ」
その声と共に身体が急に軽くなる。
私の、ぼんやりとした視界に湊君と黒猫が映った。
あ、湊君、黒猫を抱っこしている……
「あれ、湊、君……?」
「ごめんね、起こしちゃって。灯里ちゃん、ソファーで寝ちゃったみたいで。それでココがその上に乗っかってさ。灯里ちゃんうなされ始めたから重いんだろうな、と思って今、どかしたんだ」
あ、私、いつの間にかソファーで寝ちゃったのね。
身体を起こして視線を巡らせると、テーブルの上に空き缶が置かれていた。
それにテレビからは相変わらず静かな音楽が聞こえてくる。
「あー、ごめんね。部屋に戻るつもりだったんだけど……音楽と薄暗いせいか眠くなっちゃったみたい」
「あぁ、そうなんだ。いつもこの時間、俺ひとりだから気が付かなかった」
そうよね、私がお風呂のあとにここでビール飲むなんて珍しいものね。いや、初めてか。
「そうだね。せっかくだからココとの交流、深めたくて」
言いながら私は、湊君に確保されたココの頭を撫でた。すると気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らす。
うーん、やっぱり可愛いなぁ。
猫飼いたい……反対されても飼いたい……
いや、反対しないだろうけれど。
「そのうち飼えたらいいなあ」
という言葉が思わず漏れ出てしまう。
夕食の時そんな話になったけど、やっぱりペットには心惹かれるのよね……
でも無責任な飼い主にはなりたくないからな。慎重に考えないと。
「ココが乗ってたから重かったのね。もしかしてココ、私の頭とか触った?」
そう問いかけてもココはただ、ゴロゴロと撫でられるだけだ。
「頭?」
湊君は驚いた様子で言い、ぎゅっとココを抱きしめる。
あれ、どうしたんだろう?
疑問に思うけど私は夢の話を続けた。
「うん、お父さんとお母さんの夢みたんだけどね、私まだ子供で、夢の中でふたりに頭を撫でられたの。そのせいかわかんないんだけど誰かに頭を触られた気がして」
気のせいかな?
うーん、夢と現実の区別、ついてないかも。こんなこと、初めてだ。
「ああ、そうなんだ」
そう呟いた湊君は俯いてしまい表情がよく見えない。
なにか気になる事でもあるのかなぁ。
「何かあったの?」
「え? あ、ううん。なんでもないよ。もう一時だしここで寝てないで部屋に行った方がいいよ」
「あぁそうだねー」
答えて私は大きな欠伸をしてしまう。
うーん、眠い。ソファーで寝たせいか身体も痛い。
「湊君はまだお仕事あるの?」
「うん、まあ」
「そっか。がんばってね、じゃあお休み、湊君、ココ」
私は手を振って立ち上がり、空き缶をゴミ箱に捨ててからリビングを出た。