湊君も私の隣に腰かけ、グラスを手に持ちビールをぐい、と飲む。そして爪楊枝を持って、唐揚げを食べた。
うーん、聞いていいのかな、さっきの電話。気になるんだけど……
チラチラ湊君の方を見ると、彼の方から口を開いた。
「さっき話した綾斗からの電話だったんだ」
あ、やっぱりそうだったんだ。
「そうなんだ、何言われたの?」
今時わざわざ電話してくるって、よほどのことよね?
私の言葉に湊君は小さくため息をついた。
……電話、嫌だったんだな。それだけはよくわかる。
「えーと、それって内容、聞いてもいいやつ?」
「別に隠すことじゃないし。ニュースを見たかって。写真が気に入らなかったみたいで、愚痴を言っていたけど。十二月のライブに招待するからライブに招待するから来いって」
そしてまた、ため息をついた。
あれ、十二月のライブってCDを購入した人だけが申し込める、抽選のライブ、よね? それ以外にセプトリアスは今年、ライブの予定ないはずだし。
「それってセプトリアスとして最後のライブよね?」
思わずでた私の声は、ちょっと弾んでいたように思えた。
ちなみに私はアイドルに興味がないし、セプトリアスは曲をいくつか知っているくらいのライト層だ。それにライブは人が多いから苦手だ。でもちょっと気になる。だってセプトリアスが七人揃う最後のライブ、よね?
ライブ行ったことないから行ってみたい、っていう思いはあるのよね。でもそこまで好きなアーティストがいないから行ったことないけど。
私の声の違いに感づいたのか、湊君が意外そうな顔をしてこちらを見る。
「灯里ちゃん、興味あるの?」
「ううん、そこまでじゃないけど。ただライブって行ったことないからさ」
へらへらと笑いつつ言い、私はビールを飲んだ。よく冷えていておいしい。これ飲んだらお風呂入ろう。時刻はもう八時過ぎだし。
湊君はビールを飲みつつ、しばらく黙り込んでしまう。
そして、ぼそっと言った。
「灯里ちゃんが気になるなら行く?」
「ん……え? 何に?」
「ライブ。目立つのは嫌いだし、興味はないけど。でもライブは行ったことないから見てみたいって気持ちはわかるんだ」
「え、でも……」
「パス、二枚送るから、って言っていたからきっと勝手に送りつけてくるよ。いつもそうだから」
と言い、ビールをぐい、と飲んだ。
だ、大丈夫なのかな、これ。ちょっと心配だけど……
「そう、なんだ。大丈夫ならそうね、行ってみようかな」
断る理由もないから、私は頷き唐揚げを摘まむ。
こんな時間に油ものを食べる罪悪感を覚えるけど、でもおいしい。
「じゃあ連絡しておくよ。あとねえ、灯里ちゃん、紅葉なんだけど」
声のトーンが一気に変わり、湊君は弾んだ声と嬉しそうな顔で言った。
「今月の終わりに紅葉のライトアップやるって発表されたから、月末に行こう? 土曜日の方がいいのかな」
あまりの変わり様に驚くけど、よほど嫌なんだろうな、お兄さんのこと。
普段家族の事を話さないし、なんか色々あるんだろうなぁ。
「そうね、土曜日の方がいいかな」
「わかった。じゃあ土曜日の夜、出かけよう」
楽しみそうに言い、彼はビールをぐいっと飲んだ。
お風呂に入って自分の部屋に戻り、私は座卓の前に座る。
湊君の誕生日がもうすぐだ。
でも私はまだ誕生日のプレゼントを決めていない。
スマホで調べてみたけどどれもイマイチなのよねぇ。
ネクタイ、ベルト、香水……湊君、外に出たりしないからなぁ……
香水は時々つけているみたいだけど、毎日じゃないし。
家にしかいないからなぁ……
そんなことを考えつつ、私はガラスペンで字を書いていた。
ガラスペンの練習帳はすでに二冊目になった。
インクを増え、赤に青、緑や茶色などもある。
私みたいにはっきりとした趣味があるといいんだけど、一緒に暮らしていて湊君の趣味ってよくわからないんだよね。
青が好き、っていうのはわかっているんだけど。あとなんだろう?
以前、湊君に何が欲しいか聞いたとき、私との時間、って言っていたなぁ。
……月曜日に有給でもとってどこかに行く?
でも泊まりでどこかに行くのは急すぎるから無理だし。
なんてことを考えていたらすごい字が歪んでる。
うーん、今日は集中できないしやめておこう。
そして私はペンを置く。
「何にも思いつかないなぁ。うーん……」
そう思いつつ私は両親の位牌を見る。
そういえばお父さん、お母さんとのお揃いで買ったっていうブレスレット、ずっとしていたっけ。
お揃いかぁ……恋人あるあるよね。ちょっと憧れるけど……どうしよう。お揃いって思うとちょっと恥ずかしいかな。
ブレスレット? ネックレス? どうしよう……
私は充電ケーブルにさしたスマホを手に取り、ロックを解除してブラウザを開く。
そしてペアのアクセサリーについて調べた。