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第43話 誘い

 土曜日の朝。

 七時過ぎに起きて寝間着から部屋着のワンピースに着替える。

 そして私は洗面所で顔を洗い、私はリビングへと向かった。

 湊君はまだ寝てるだろう。

 だから静かなリビングだ。

 私はコーヒーマシンの電源をいれて、コーヒーを落とす準備をする。

 コーヒーのいい匂いが辺りに漂う中、私はリビングのカーテンを開けて窓を開ける。

 今日は空が曇っていて、小雨が降っていて湿った風が入ってくる。

 私はキッチンに戻り、冷蔵庫を開けて食パンやカット野菜を用意する。

 朝食を食べてスマホを確認すると、メッセージが溜まっていることに気が付いた。

 あー、昨日の夜は湊君と話をしてお風呂に入った後さっさと寝たからなぁ。

 メッセージはどれも昨日の夜で、相手は千代とななみ、鍵村さんだ。

 どれも飲みにいけて楽しかった、という内容だったけど、鍵村さんのメッセージだけちょっと様子が違った。


『今度は映画でも見に行かない?』


 映画かぁ……

 昨日、私が帰った後、そういう話になったのかな。


『すみません、昨日の夜はすぐ寝ちゃって今メッセージ気が付きました! 皆で映画見に行くのって学生の時みたいで楽しそうですね』


 と返す。

 するとすぐに既読が付き、メッセージが返ってきた。


『そうだねー、実は新しい映画の試写会が来月の頭にあるんだけど、いっしょにどう? 佐野さんと稲城も一緒なんだけど』


 新しい映画の試写会、ですって? やだ、試写会って言葉を見ただけでドキドキしてきた。

 このところずっと引きこもりだったし、夏休み、どこにも行けなかったからなぁ。どうしよう。

 別に映画位いいかな。ふたりで行くわけじゃないんだし。

 ななみも一緒って事よね。

 私は人が多いところが好きじゃないし、暑いのが嫌だから基本引きこもりだけど、引きこもりにならざるを得なかったのはちょっとストレス感じていたのかも。映画に誘われて心惹かれているんだもの。

 しかも試写会でしょ? ってことは出演者にも会えるかも?

 普段は姿を現さないミーハーな自分が出てきて、行こう、行こう、とはしゃいでいる。


『何の映画ですか?』


 そして返ってきたメッセージに書かれていたのはクライムサスペンス映画のタイトルだった。

 小説が原作で、警察と探偵がバディを組んで事件を解決していく作品だ。

 上映したら見に行こうかなー、どうしようかな、と思っていた映画なので見に行かない、という選択肢はなかった。


『行きます!』


『わかった、十月六日日曜日の夕方六時開場だから、集合場所とか改めて連絡しますね』


 その言葉に私は、了解、のスタンプを返してスマホを閉じた。

 映画の試写会に行くの初めてだからな……すごく楽しみだ。

 お昼前になって湊君が起きてきて、ふたりでお昼を食べる。

 レトルトのアサリスープのスパゲティだ。

 テレビは動画サイトを映していて、最近流行っているボカロ曲が流れている。

 スパゲティを食べつつ私は言った。


「ねえ湊君、今度は映画見に行ってくる」


「うん、誰と行くの?」


「鍵村さんとかと四人で映画の試写会に誘われたんだ」


 そう答えると沈黙が流れた。かちゃり、という食器がぶつかる音が響き、テレビ画面では女の子のアニメーションが流れている。


「そうなんだ。しばらく引きこもりだったし、いいんじゃないかな」


「そうそう、ろくにお出かけできなかったからさー、ちょっと外に餓えてるかも。二十三日の月曜日なんだけど、行ってくるね」


 そう伝えると、湊君は一瞬真顔になった後、にこっと笑い、


「わかった」


 と頷いた。

 なんだろう、今の間は。不思議に思ったもののまあいいか、と思い、食事を続けた。

 もう少ししたらもっと涼しくなるだろうからどこか行きたいなぁ。でもどこがいいだろう?

 紅葉を見に行くのもいいよね。秋って短いからタイミングを逃すと見に行けないんだよねぇ。

 そんなことを考えていると、隣に座る湊君が口を開いた。


「ねえ灯里ちゃん」


「何?」


 返事をして、私は彼の方を向く。

 湊君もこちらを見て私の様子をうかがう様な表情で言った。


「来月になったら紅葉、見にいかない?」


 まるで私の考えを見透かしたような提案に内心驚きつつ、私は笑顔で頷く。


「紅葉? いいねー。私行ったことないから行ってみたい」


 そう答えると湊君はほっとした様な顔になる。


「じゃぁ行こうよ。それと最近外、行っていなかったから明日でかけない?」


「いいよ、どこ行く?」


 すると湊君は口を閉ざして視線を泳がせた。

 あ、そこまでは考えていなかったのかな?

 湊君は顎に手を当てて考え込むようなしぐさをする。


「どうしよう……」


 うーん、私は今、どこに行きたい、っていうのはないしなぁ。

 久しぶりに文房具見に行きたいくらいかな。そうなると駅前か、郊外の大きなショッピングモールかな。


「それじゃあショッピングモール行かない? それなら何かあるでしょ」


 私が提案すると、湊君はにこっと笑い頷いた。


「うん、そうだね」


「じゃあ明日の一時過ぎに出掛ける、でいい? それなら湊君、起きられるよね」


 そう尋ねると、湊君の視線が泳ぐ。普段起きるのは十二時前後だから大丈夫だろうに、何か不安なのかな。


「えーと、うん、まぁ大丈夫だと思うよ」


「起きなかったら起こすからね」


「大丈夫だよ、自分で起きるから」


 そう断言し、湊君はカップを手にして中の麦茶を飲んだ。

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