クリスマスは特に何にもしてこなかったけど、恋人ってなると何かしたりするのかな、するよね?
ドラマとかアニメとかじゃあ何かしてるし、こう、特別な日扱いよね。皆キリスト教でもなんでもないはずなのに。
「ねえねえ湊君、クリスマスって毎年何してた?」
「適当に誰かとホテルに行ってたかな」
さらり、と湊君が答え、何とも言えない沈黙が流れる。
それはそうよね。湊君の倫理観、おかしいんだった。でもそんなに気にならない。だって、酔ってるから。
だから私はその勢いでもっと突っ込んだ質問をぶつけた。
「ねえねえ、今まで何人と関係もったの?」
寄りかかったまま、私は湊君の顔に目を向けた。
「えーと、そんなの考えたことないよ。毎日誰かと寝てた頃もあるし、何か月もそういうことしないこともあったし。って、灯里ちゃん、こういう話、聞きたくないんじゃないの?」
ちょっと驚いた様子で湊君が言う。
うん、あんまり聞きたい話じゃない。だけど好奇心の方が勝るんだ。
「だって興味あったから。だって私、湊君のこと中学一年の時から知ってるんだよ? でもそういう異性の話とか全然しなかったじゃない」
「そうだね、だって俺、興味なかったし」」
「じゃあなんで誰とでも寝るようになったの?」
言いながら私は湊君に顔を向けて、彼の肩に手を置く。
「相手に誘われたからだよ。あとはシたいときに誘える相手を適当につくっていただけ」
恋人でもないのに誘われるとかあるんだ。そんなのドラマとか漫画の中だけかと思ってた。
まあ、湊君別に見た目は悪くないもんねぇ。実際、女性に声をかけられているのは何回か目撃したし。
そう言えば大学生の時、湊君に片想いしてる子が何人かいたなぁ。あの子たちの誰か、湊君に告白とかしたのかなぁ。
「ねえ、告白されたことはある?」
「あるよ」
「オッケーしたことは?」
「ないよ」
「じゃあ寝たことは」
「あるよ」
その返答を聞いて、内心苦笑する。付き合う、と寝る、が完全に分離してるのね。ってことはあの子たちの中に湊君と寝た子がいるのかなぁ。そう思うとなんだか複雑。
なんで私、十年も友達だったのに湊君のそういう一面、知らなかったんだろ?
「ねえ私、湊君の何を見てきたんだろ?」
「え? なんで?」
「だって私、湊君と十年友達だったでしょ? なのに私、湊君のそういうところも絵を描いてることも知らなかったもの」
「俺は灯里ちゃんの誕生日や恋人のことで苦しんでたこととか知ってるよ」
「それで思い出したけど私、湊君の誕生日知らない」
秋だ、って聞いた記憶はあるけどいつなのか聞いたことないと思う。
すると湊君は小さく首を傾げて言った。
「あれ、そうだっけ。誕生日は十月十二日だよ」
「そうなんだー」
十月かぁ……十月……ってあれ?
私は湊君から頭を離して彼の顔を覗き込んだ。
「ちょっと、来月じゃないの!」
「そうだよ」
何でもない様子で湊君が答える。
誕生日来月なら何か用意した方がいいよね? うん、だって恋人、なんだから。
「え、どうしよう。ねえ誕生日何が欲しいの?」
ずっと友達だったけど、湊君に誕生日のプレゼントなんてあげたことない。貰ったことはあるけど。そうだ、湊君、誕生日教えてって言っても教えてくれたことないんだ。
私の言葉に、湊君はちょっと困ったような顔になる。
「俺、誕生日を祝われるのあんまり好きじゃないんだよ」
「え、そうなの?」
そんな人いるの?
驚いて湊君を見つめていると、彼は頷き言った。
「うん。なんか恥ずかしいって言うか。嫌だって言うか……でも灯里ちゃんが祝いたいって言うなら嬉しいかもしれない」
と言って、湊君は微笑む。
かもしれないってどういう意味だろう?
うーん……酔ってるせいか頭があんまり回らないなぁ。
「そうなの? じゃあ私何か考えるー。ケーキは? ケーキは食べる?」
「あれば食べるよ。あんまりフルーツが使われてるのは好きじゃないけど」
「じゃあ小さいホールケーキ買おうか? 私は甘いの好きだし」
「灯里ちゃんがそうしたいならそれでいいよ」
「じゃああとはプレゼントだよね。何か欲しい物ない?」
すると湊君は視線を泳がせた後、えーと、と、ちょっと困ったような顔になる。
なんだろう、私変なこと言ってるかな?
「灯里ちゃんを抱きたい、って言ったら?」
ふざけた口調で言われ、その言葉の意味を考えて、私はぼん、と顔が熱くなるのを感じた。
え、何言った? 今私、何言われた?
抱きたいってなんだっけ。えーと……えーと……
私は目を見開いて湊君を見つめて呟くように尋ねた。
「……恋の仕方わかったの?」
「まだよくわかってないよ」
そう言って湊君は小さく首を傾げた。
「じゃあやだむりだめ」
恋人とはいえ契約だもん。さすがにそこまでは無理……今は、だけど。
湊君は苦笑して頷き、
「わかった、灯里ちゃんが嫌だって事はしないよ」
と答えた。ですよね。知ってた。
「じゃあ他に何か欲しい物ないの」
「ないよ。あれば自分で買うし。高ければ諦めるだけだから」
そうか、そういう事なのか。
まあそうよね。当たり前よね。
湊君は顎に手を当てて考え込むそぶりを見せる。
しばらくした後、湊君は動画が流れるテレビの方を見つめて言った。
「灯里ちゃんとの時間、かな」
「もう、何言ってるのよー。一緒に暮らしてるんだから一緒にい放題でしょ? えーと、十月の十二日は何曜日……って土曜日じゃないの。私休みだよー」
私はスマホのカレンダーで曜日を確認して言った。
「あぁ、そうなんだ。じゃあ俺もその日、仕事しないようにしようかな」
「ねえねえ、家と外食、どっちがいい?」
「灯里ちゃんの負担にならない方がいいな」
「じゃあ外に食べ行こうか。私お店探すね」
言いながら私は湊君に向かってガッツポーズをして見せた。
すると湊君は優しい笑みを浮かべて頷き、私に手を差し出してくる。
「じゃあ楽しみにしてるね。灯里ちゃん、お水、もう一杯飲む?」
「あ、うん、お願い」
私がグラスを湊君に差し出すと、彼はそれを受け取りソファーから立ち上がる。
うーん、何食べ行こうかなぁ。考えるの楽しい。
プレゼントどうしよう? 色々とお世話になっているから何かはあげたいなぁ。
私は満天の夜空を映し出すテレビを見つめながら、何をあげようかと考えた。