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第37話 久しぶりの飲み会

 しばらくしてお店に着き、中に入ると中はそこそこ混みあっていた。

 薄暗い店内で店員さんが料理を運んでいて、お客たちはお酒を飲みながら楽しそうに話している。


「いらっしゃいませー」


 ななみの姿を捜し、私たちは入り口からまっすぐに進む。


「あ、千代! 灯里、こっちこっち」


 と言い、手を振る眼鏡の女性がいた。


「あ、ななみ」


 黒髪をひとつ縛りにした彼女が佐野ななみだ。

 彼女に近づくと、ななみの前にひとり、男性が座っていた。

 同じ部署の稲城さんだ。たしか私と同期だったはず。

 彼は私たちを見てちょっと驚いた顔になる。


「誰が来るのかと思ったら、森崎さんたちだったんだ」


「稲城さんも来てたんだ」


 私が言うと、彼は頷く。


「佐野さんに誘われて。たまにはいいかなーって思ってきたんだけど」


「私たちもそんな感じだよー。っていうか誰が来るのかいまいちわかってないし」


 千代は笑いながら言い、ななみの隣の席に腰かけた。

 六人掛けの席で、通路側にななみ、奥側に稲城さんが座っている。私は千代の隣に座り、テーブルに置かれたメニューを見つめた。

 何飲もうかなぁ。やっぱりとりあえずビールかな。


「鍵村さん、ちょっと遅くなるから先に始めてって。もうすぐ会社出られるらしいの」


 スマホを見つめてななみが言った。そして注文するためにスマホを操作する。

 最近の居酒屋、スマホで専用サイトにアクセスして注文するお店があるんだよね。

 このお店はそういう注文方法のお店らしい。


「生中飲む人ー」


 とななみが言うと、皆の手があがる。

 まあそうだよね、やっぱりとりあえずビールよね。


「じゃあ生中四つと。先に飲み物頼んじゃうね。あと食べ物何頼みたい?」


「そうねぇ。串盛りと、唐揚げ、ポテトかな」


 メニューを見つめて千代が言う。

 このふたりがいると仕切ってくれるから楽なのよね。


「私、サラダ食べたい」


「俺、揚げ出し豆腐」


 私と稲城さんが交互に言うと、ななみが手際よく入力していく。


「とりあえずそれで送信しておくねー」


 と言い、スマホを置いた。

 ほどなくしてビールのジョッキが四つ、運ばれてくる。


「お店のビールだー」


 嬉しそうにななみが言い、ジョッキを手にする。

 お店のビールって家で飲むのとは違うもんねぇ。だからななみが喜ぶのはわかる。

 そしてななみは私たちを見回して言った。


「鍵村さん、まだ来ないけど先に始めよう。じゃあ、かんぱーい」


「かんぱーい」


 そしてジョッキがぶつかり合う音が響き、それぞれがビールに口をつけた。

 やばい、おいしい。

 冷たいし泡は細かいし。

 たまに外で飲むのもいいなぁ。こうしてストーカーを気にせずお店に行って飲めるって最高だ。


「最近、映画見た? 私この間見た映画なんだけど」


 そう話し始めたのはななみだった。

 映画製作も行っている会社なので、映画が好きな職員は多い。だから集まると自然と映画の話が出てくるんだよね。

 ななみは最近見たよかった映画とよくなかった映画について語っている。

 映画館には湊君と行って以来行ってないなぁ。引きこもっている間もずっとドラマを見ていたし。


「最近見てビミョーだったのがサスペンス映画だったんだけど、叫んでばっかりで何が何だかわかんなかったのよね」


「それってもしかしてあの鬼ごっこの映画? あんまり面白そうじゃなかったけどやっぱイマイチなんだ」


 ななみの言葉を受けて千代が言う。

 あれ、鬼ごっこの映画って確か……


「それってうちが関わった映画……」


 そう呟いたのは稲城さんだった。

 あ、やっぱりそうだよね。なんだか聞き覚えのある内容の映画だなって思ったんだ。

 うちの会社、スターライトメディアが関わる映画は社内の広報で見かけるから、タイトルだけは知っていたりする。

 ななみはビールを飲み干して頷き言った。


「映画の最初にでかでかと会社のロゴ出てたわ。今年見た映画の中でサイコーに意味わからなかった。それもそれで楽しいんだけど。えーと、二杯目飲む人ー」


「あ、私レモンハイがいい」


 ななみの言葉に私は手を挙げる。

 そこにサラダが運ばれてきて、鍵村さんも現れた。


「遅れてごめん。会議が長くなっちゃって」


 と言い、彼は稲城さんの隣に腰掛けた。


「あ、鍵村さんお疲れ様です、とりあえずビールでいいですか?」


 テキパキと注文を入力しながら尋ねるななみに、鍵村さんは頷いて答えた。


「うん、それでお願いします」


「はーい、他に頼むものありますか?」


「冷やしトマト食べたーい」


「千代はトマトね、鍵村さんはどうしますか?」


 すると鍵村さんはテーブルの上を見回して首を横に振った。

 テーブルには最初に注文した唐揚げや串盛りなどがぞくぞくと届いている。

 串盛りは十種類あって、具が何かぱっと見わからない。


「いや、大丈夫かなー。あとで頼むよ」


「わかりました」


 注文を入力し終えたらしいななみは、スマホをテーブルの上に置いた。

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