いつまでもいていい、かぁ。でもそういうわけにはいかないよね。
明日からどうしようか考えないとなぁ。
そのためにもあのストーカーを捕まえないと。
ストーカーが現れるのは月曜日と木曜日、もしくは火曜日と金曜日……なのかな。
きっとその日が休みなんだろうな。ってことは接客業とか? 医療関係や介護関係もありうる……あ、でもゴードンって人、接客業だって言っていたっけ……
確か基本土日は仕事で月曜と木曜日が休みなことが多いって言っていたような……?
そうなるとやっぱりあの人? うーん、月曜日に張り込みとかできないかなぁ。
絶対あの人、休みの日に私のアパートを見張るよね? それなら張り込み可能じゃないかな。
頭の中で考えそして、私は片づけをしている湊君の腕を掴んだ。
すると、湊君は驚いた顔をして私の顔と掴んだ腕を交互に見る。
「どうしたの、灯里ちゃん」
「あのね、私。張り込みしようと思うの」
「張り込みって……ストーカーをってこと?」
「そう。たぶんね、相手は月曜日、仕事が休みなのよ。だから明後日、うちのアパートの近くで見張っていたら現れるんじゃないかなって思って。たぶんあの人じゃないかって心当たりはあるんだけど、でも確証はないから、確定情報が欲しいの。だってこのまま怯えているのは嫌だから」
言いながら、私は湊君の腕を掴んだ手に力を込める。
怖い、でもこのままじゃあずっと怯えていることになる。そんなの嫌だからまず正体を掴みたい。
湊君がまっすぐに私を見つめてくる。何を考えているのかは全然わからないけど、しばらく沈黙が続く。
そして湊君は小さく頷いて言った。
「そうだね、灯里ちゃんが望むなら俺も手伝うよ」
手伝う? って何を?
どういう意味なのか分からず、私は思わず目を見開いて彼を見つめる。
湊君はいたってまじめな顔をしてこちらを見ていた。
どういう意味だろう、手伝うって……
不思議に思っていると湊君が口を開いた。
「待つとしたらアパートの近くかな。夏だしエンジンかけっぱなしだとばれるだろうから……ちょっと考えないとね」
なんて言いだす。
そんなつもりはなかったので私は驚きでいっぱいになる。
「え、でも湊君、危ないでしょ?」
すると湊君はちょっと呆れたような顔になる。
「危ないのは灯里ちゃんの方でしょ? まあ襲われる、はないと思うけど。今までチャンスは何回もあったと思うけど実行してないし。だから大丈夫だよ。それに俺は灯里ちゃんが怯える姿を見るの、嫌なんだ。そんな姿、たくさん見てきたから」
そして今度は悲しげな眼をする。
確かに湊君、中学からの付き合いだから私の色々を見ているんだよな……
私が色んな男と付き合って、傷ついてきた姿を湊君はずっと見て来たんだ。
なんだか変な気分だ。友達で、就職と同時に疎遠になって、再会して恋人ごっこをするようになった。
私はそんなに意識していなかったけど、私が思う以上に湊君、私の事を見ていたんだな。
そう思うとちょっと心が痛くなる。
「だから灯里ちゃん、俺も一緒に行くよ」
強い口調で言われて私はしばらく考えた後頷いた。
「わかった、ありがとう、湊君」
すると湊君は微笑み頷く。
「俺は灯里ちゃんが傷つくようなことはしないし、そういうことから君を守りたいんだ。だから一緒に考えよう? 月曜日のことを」
「うんそうだね」
私は頷き、並んでソファーに腰かけて計画を立てた。
「えーとたぶん、私が家を出る時間に見張ってると思うの。だからその時間にアパートの近くを見張れば現れると思うんだよね」
「それなら時間を絞れるよね。じゃあその時間に灯里ちゃんのアパート前の道路を見張ろうか? 行くなら車の方がいいと思うんだけど、どこかに止められるかなぁ」
「うちの近くのコンビニあるからそこでいいんじゃないかな。そこの駐車場からならうちの前の道路が見えるから、不審者がいたらわかると思うの」
駅からうちに向かう途中にコンビニがある。
広い駐車場があるから、止まっていてもあまり不審に思われないだろう。
実際、車のエンジンをかけたままでご飯食べている人を見かけるから。
「じゃあそこに止めて見張っていようか。駅から来るのかなぁ、それとも車なのかな」
「道路に車が止まっていたらさすがに目立つから……コンビニに車を置いている可能性もあるけど、電車じゃないかな。たぶんそれで後をつけてきてるんだと思うの」
「あぁそうか。車だと後をつけられないもんね。灯里ちゃん、電車通勤だし」
だからきっと、車じゃなくて電車を使っているだろう。うちの近くだとしても歩きなのは確かだと思う。ってなると明後日は早く起きないとかぁ……
そうなるとひとつ、懸念事項がある。
「……ねえ湊君」
「何?」
「朝、起きられるの?」
私の問いかけに、湊君は私を見つめて沈黙する。
湊君は夜中まで仕事をしているから朝起きない。
今朝だって午前中、ずっと寝ていたから。
「が、頑張れば起きられるよ。灯里ちゃんの為だし」
必死な顔で言うけどちょっと信用できない。
私がアパートを出るのはだいたい八時頃だ。
それより前にアパート近くに着かないとだし、通勤で道路が混むことを考えたら遅くとも七時にはこのマンションを出ないといけないと思う。そうなると起きるのは六時くらいかなぁ。
私は起きられるだろう。だけど湊君は無理じゃないだろうか。
「無理、しなくていいよ?」
言いながら私は彼の背中を叩く。
彼は首を横に振り、苦笑して言った。
「だ、大丈夫だよ。べつに起きられないわけじゃないし寝られないわけじゃないから」
と、必死な顔になる。
ちょっとその様子が面白く感じて、私は思わず吹き出してしまった。
「湊君、そんなに必死にならなくてもいいのに。じゃあ私が朝起こすから恨まないでね」
そう私が言うと、ばつが悪そうな顔になりつつ湊君は頷いた。