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第27話 祭り

 翌日、八月三日土曜日。

 祭りであるため駅周辺は混雑している。

 湊君が住むマンション周辺も交通規制で車を出すのは難しいため、駅にある交番にストーカーの事を相談することにした。

 わかってはいたけど、送られてきた写真は盗撮、といわれると微妙なラインらしい。路上で撮られているものは盗撮と言い難いそうだ。まあ確かにそうよねぇ……密室とかじゃないもんね。

 デパートで撮られたと思われる写真なら盗撮と言えなくもない、とも言われた。

 対応してくれた警察の人は親身に話を聞いてくれたけどできることが少ないみたいで、家から離れることや最悪引越しも考えるように言われた。

 何かあればすぐに電話するように、とも言われた。何かあってからじゃ遅いけど、何かあってからじゃないと警察って動けないもんねぇ。それは仕方ない。仕事はリモートにしてもらうとして、引越しとなるとなぁ……

 どこか部屋あるかなぁ……あとで探そう。

 交番からの帰り道、辺りには浴衣を着た若い子たちが楽しそうに歩いている。

 そんな様子を見つめながら、私は呟く。


「犯罪って、立証するの大変なんだなぁ」


「そうだねぇ。明らかに灯里ちゃんを狙って撮ってるけど、路上なら誰でも写真、撮れるからねぇ。気分はよくないけど」


「そうねぇ……難しいなぁ」


 犯人はどうしたら私の目の前に現れるだろう。

 相手がわかれば対処のしようがあるけど、ないとどうにもならないもんねぇ。

 にしても誰なんだろう……やっぱりゴードンなのかなぁ。こんなことする人かどうかなんてわかんないしなぁ。

 あーあ、なんで私、変な人を引き寄せちゃうんだろう。もう嫌なんだけどなぁ。こんなのもう終わりにしたい。

 そう思ってため息をつくと、湊君が言った。


「とりあえず灯里ちゃん、今日はお祭りだし楽しもうよ。せっかく出てきたし、買い物の前に出店、見にいかない?」


 その提案にちょっと悩む。

 だって外は人が多いし暑いからだ。

 今、時刻は二時過ぎ。ってことは一番暑い時間。歩いているだけで額から汗が流れてくる。

 湊君の顔を見ると、彼は私の様子をうかがう様な顔をしてこちらを見ていた。

 うーん……まぁ、せっかく出てきたしな……出店、という言葉には心が揺れる。

 私は笑って頷き、言った。


「うん、そうね、そうしようか」


 そう答えると、湊君はほっとした様な顔になる。湊君、私の反応、すごく見てくる気がする。

 私がなんて答えるか、不安なのかな。付き合ったことがないってことは、こういう経験がないってことだもんね。


「じゃあ何食べようか」


 言いながら私は辺りを見回す。

 道行く人たちは、かき氷にチョコバナナ、おえかきせんべいにからあげなどを持って歩いている。見ているだけでお腹が空いてくるなぁ。お昼、ちゃんと食べたのに。唐揚げおいしそうだし、クレープも捨てがたい。


「俺は何でもいいよ。灯里ちゃんは何を食べたい?」


「そうねぇ、じゃあかき氷がいいなぁ。暑いし」


「あぁ、かき氷いいね」


 と言い、湊君は頷いた。

 かき氷屋さんを探して歩いているとどんどん人の数が増えてきた。山車からお囃子と笛の音が聞こえてくると、祭りだなぁ、って思う。

 ふわふわのかき氷を出してくれる店を見つけて、私たちはそこでかき氷を購入し、歩きながらそれを食べる。

 あー、冷たくておいしいい。やっぱり祭りはかき氷よね。


「かき氷なんて久しぶりに食べるよ」


 なんて言って、湊君は大きく口を開けて氷の塊を口に入れる。

 言われてみれば確かにそうかも。私もかき氷を食べるのは久しぶりな気がする。


「祭りじゃないとかき氷って食べないかなぁ。夏はやっぱりかき氷よね、って思うけど、普段は食べに行ったりしないもんね」


「そうそう。かき氷を出してるお店、あるのは知ってるけど行かないし」


 確かに、かき氷が食べられるお店って何か所かあるけど、行ったことないな。けっこう高いし。

 私はかき氷をすくって口の中に放り込む。ふわふわのかき氷は口の中にいれると、あっという間に溶けてしまう。

 お腹は膨れないけど心は満たされる。


「ねえ湊君、これ食べたら夕飯とか買っていこうね。このまま外いたら溶けちゃうから」


「あはは、確かに溶けちゃいそうだよね。ねえお酒飲むでしょ、灯里ちゃん。俺はまだ仕事あるから飲まないけど、それだとおかずとか多めの方がいいのかな」


 俺は仕事がある、と言われると私だけお酒を飲むのは悪い気がしてしまう。


「……まあ、飲みたい気持ちはあるけど……」


 遠慮がちに言うと、湊君はにこっと笑って言った。


「俺のことは気にしなくていいよ。昨日のこともあるし、それで気分が晴れるならその方がずっといいから」


 まあ確かに、飲まなくちゃやってらんない、っていう思いはある。

 湊君の言葉に甘えよう。そう思い、私は頷き答える。


「そうね、そうする。じゃあ定番だけど唐揚げとかポテトとか買っていこう! 室内から見られる花火、楽しみだなぁ」


 なんと言ってもすぐ涼しい部屋に入れるのは最高よね。

 テンション上がってきた。


「お菓子も買っていこうね。ポテチとか」


「そうだね。灯里ちゃんが食べたいもの、たくさん買っていこう」


「湊君が食べたいものもねー」


 言いながら湊君の背中をぽん、と叩くと一瞬驚いた顔になる。そのあと彼は微笑み頷いて言った。


「そうだね」


 かき氷を食べ終えて、私たちは食材を買い込みマンションに戻った。

 時間は三時過ぎ。花火まではまだ時間がある。

 ふたりでテレビゲームをして過ごし、夕方になって私たちは買ってきたものをお皿にあけてレンジにかける。

 花火は七時過ぎからだ。

 唐揚げにポテト、湊君が食べたい、と言ったピザなどを用意して、テーブルに並べる。

 楽しみだなあ花火。

 準備している間に空はどんどん暗くなっていく。

 そしてテレビからベランダ側へと向きをかえたソファーに腰掛けたとき、ドーン、と空に花が咲いた。

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