湊君の部屋に入ると、エアコンをつけっぱなしなんだろう、とても涼しかった。
買ってきたものをキッチンに置き、私はお弁当を湊君に預けてソファーに腰かけた。
あー……落ち着く。
人の家だけどすごく落ち着く。
湊君がレンジでお弁当を温めてくれて、テレビをつけて動画を流す。
いわゆる作業用ミュージックが流れる中、湊君が言った。
「とりあえず夕飯食べようか。そのあと話しよう。飲み物何がいい? お茶か、ジュースか……お酒も買ってきたけど」
「お酒。ビール飲みたい。そうじゃないとやっていけない」
ばっと湊君の方を見て言うと、彼は笑って頷いた。
「そうだよね。怖い目にあったわけだし。でも少し元気出て来たみたいでよかったよ」
と言い、湊君は私にビールが入ったグラスを持って来てくれた。
「わぁ、ありがとう、湊君」
私はグラスを受け取り、それに口をつけて一気に半分飲む。
あー、おいしい。
そこに温めてもらったハンバーグ弁当が運ばれてきてお腹が、ぐう、と鳴る。
湊君も買ってきたオムライスと麦茶の入ったグラスをテーブルに置き、私の隣に腰かけた。
湊君は飲まないのか……ってそうだ、仕事あるもんね。
私が何か言う前に、湊君がにこっと笑ってこちらを見る。
「俺はまだ仕事あるから、灯里ちゃんは気にせず飲んでよ」
「あ……うん、ありがとう」
「じゃあいただきます」
「いただきます」
ふたりで手を合わせたあと、私は割り箸が入った袋を開いた。
ご飯を食べたあとゴミを片付けて、私はビールをおかわりする。
「ねえ灯里ちゃん、例の手紙、見せてもらっていい?」
湊君に言われ、私はソファーの後ろに置かれた旅行バッグからあの手紙を取り出して湊君に渡す。
「宛名も何もないってことは、直接ポストにいれたってことだよね」
言いながら、湊君は封筒の裏表を見る。
「うん……それ、なんだか分厚いよね」
「そうだね、何が入ってるんだろう」
そして湊君は、部屋のパソコンラックからはさみを取り出し、封筒の封を開ける。
「あ……」
中から出てきたのは便せんと私が映った写真だった。
ちょっとわかりにくいけど、デパートで千代とお菓子を選んでいるときの写真と、この間湊君と一緒に映画館に行った時と思われる写真、それにアパート近くを歩いている時の写真だ。
「ひっ……」
思わず悲鳴を上げて私は口を押える。
「なんでストーカーって、わざわざこういう写真を送ってくるんだろうねぇ」
のんきな口調で言い、湊君は二つ折りにされた便せんを開いた。
「それに妙に自信満々なの、何で何だろう。俺にはわからないなぁ」
と言い、便せんを折って首をかしげる。
「……何が書いてあったの?」
おそるおそる尋ねると、湊君は真顔で言った。
「見たい?」
「……いや、今はいいです」
だって怖いから。この写真だけでも十分怖いのに、手紙なんて読んだらもっと怖くなりそうだもの。
「とりあえずしばらくうちにいて大丈夫だから。相手はうちの場所は知らなさそうだし」
「そ、そうなの?」
「うん。手紙の内容から察するに、だけど。これ、盗撮だし警察に相談できると思うけどどうする?」
どうしよう。警察に相談することなのかな。実害はないと言えばないし……でも、実害がでてからじゃ遅いよね。
私は少し悩んで頷き言った。
「このままじゃ怖いし、怯えているのは嫌だから明日警察に行く」
怖い思いをして暮らすのは嫌だもの。
湊君は手紙と写真を封筒にしまい、
「わかった、じゃあ一緒に俺も行くよ」
と言ってくれた。
でも明日と明後日はお祭りだ。この辺りは交通規制されちゃうから車、出せなくなるよね……警察署はちょっと遠いし。
駅に交番があるけど、そこで相談してもいいのかな……
うーん、考えてもわからないから明日、目が覚めてから決めよう。そうしよう。
電話してみてもいいんだし。
「ありがとう、湊君」
「大丈夫だよ。灯里ちゃん、こういうの初めてじゃないわけでしょ?」
うん、そうだ。初めてじゃない。ストーカーに近いのは中学の時にあったし、大学生の時にも社会人になってからもつけ回されたりは何回かある。
そう思うと私はずん、と心が重くなる。
「そうなのよね……なんでそういう人をひきつけちゃうのかなぁ……」
そう呟き、深くため息をつく。
もうこんなの終わりにしたいんだけどなぁ。ただ私は、家族が欲しいだけなのに。
「大丈夫だよ、灯里ちゃん。だから俺たち、付き合ってるんでしょ?」
優しく響く声で言われて私の心臓が、ドクン、と音を立てる。
「俺は灯里ちゃんを傷つけないし、怖い思いをさせたりしないから」
「湊君……」
微笑み言われ、私はドキドキが止まらなくなってくる。
これはやばい。私、このままじゃあ本気で湊君に恋してしまいそう。