映画館に花火。
なんだかんだでちゃんとデートっぽい予定が決まった。スケジュールが決まるとちょっと楽しくなってくる。
スマホを見ながら映画館の予定を見るけど、上映スケジュールって一週間先までしかわからないし、今上映している映画がいつまでやるかってわかりにくいのよねぇ。
「へぇ。席の予約って、三日前からなんだねー」
「そうそう。だから来週の週末見に行くとしたら水曜日か木曜日に予約しないとなのよね。まあ、当日行っても映画によっては普通に見られるだろうけど」
「なんでも予約だよねー。僕も女の子をレストランに連れて行くときは予約していたし。ホテルは予約当たり前だけど」
レストランのあとホテル。
さらっと言われた言葉に少々モヤモヤしてしまう。
私は思わず湊君を半眼で見つめ、低い声で言った。
「ねえ湊君。契約とはいえ私たち付き合ってるんだよね?」
「うん、そうだよ」
「そういう相手に他の女性とどうしていたかって話、しないの」
すると湊君は何度も瞬きを繰り返して黙り込み、私を見つめる。
……これは私の言葉を反芻している、のかな?
そんなに考え込むような内容じゃないと思うんだけどな。
どれくらい黙り込んでいただろう。実際は数分もなかったかも知れないけれど、とても長い沈黙に感じた。
そして、湊君は真顔から笑顔になったかと思うと、頷いて言った。
「そんな風に考えたことなかった。うん、わかったよ、灯里ちゃん」
わかればまあいいんだけど……なにか不安を感じる笑顔だなぁ。
なんていうんだっけ、こういう人……えーと……あぁ、そうだ、無神経。
湊君の話を聞いてると、ホテルやレストランの予約してすごく気づかいできる人にみえるけど、何ていうかずれている感じがする。
この先私、大変そうだなぁ。
「言われてみれば確かに灯里ちゃんが話す男の話って、聞くたびになんか嫌な感じだったからそういうことだよね?」
「それは単に私がつきあった男性にろくな人がいなかったってだけでしょう」
わかってるんだからそんなこと。自分でもそれについては何も言い返せないもの。
私の言葉を聞いて、湊君は、ハハハ、と笑い頷いた。
「確かにそうだね。ねえねえ灯里ちゃん。映画なんだけど、灯里ちゃんはミステリーとか好きだったよね」
あ、覚えてたんだ。
「うん、そうよ」
「じゃあそういうミステリーの映画とかないの? 見るなら灯里ちゃんが好きなものがいいな」
と言い、湊君は私のスマホ画面を覗き込んでくる。
ミステリーかー……
なにかあるかなぁ……
「あ」
画面を見つめて昨日から上映が始まったアニメ映画のひとつが、ミステリー系であることに気が付く。
異能力者の少年たちが主人公なんだけど、ある日猫が惨殺される事件が起きて、その犯人を捜すっていう話だ。
「湊君、べつにアニメも邦画も大丈夫よね」
「うん、大丈夫だよ」
「じゃあこれがいいな」
言いながら私は湊君にその映画の概要を見せる。
彼はその画面を見つめながら言った。
「これ、小説だよね。なんかタイトル見たことある。いいよ、これで」
「じゃあこの映画で決まりね。席は私が予約する。また土曜日でいい?」
「うん、いいよ。午後なら」
残念ながらまだ来週の土曜日の上映時間は出ていない。
だからこの映画が何時から上映なのか全然分からないのよね。
まあ公開して一週間の映画がいきなり終わることはないだろうし……
上映回数は減りそうだけど。
「まだ映画の時間わからないから、わかったら連絡するわね」
「うん、わかった」
来週の予定が決まり、その次の週は花火の日だから……あ、毎週予定が入ってる。
なんかすごく、恋人っぽいかもしれない。
私はスマホのカレンダーにスケジュールを入力し、それを見つめて思わずニヤニヤしてしまった。
楽しみだな、そう思ってる自分がいることに驚きつつ嬉しくなってくる。
友達として会って遊んでいた時とは違う感覚。
これが付き合うって事なんだろうなぁ。