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第14話 大学生の時と今と

 翌日、金曜日は特に何もなかった。

 視線も感じないし気になる人も見かけない。

 気のせいなのかな、それとも本当に誰かにあとをつけられていたのか。確証はないしな……

 なんだか落ち着かない日をすごしそして、土曜日の十二時前。

 私は借りたTシャツと、デパートで買ったクッキーを持ってアパートを出る。

 今日も暑いから帽子をちゃんと被り、麦茶の入った水筒を持参する。

 蝉の鳴き声がにぎやかだなぁ。蝉って種類いるよねたしか。聞き分けできないけど。

 暑くても外を土曜日だからか人通りはそこそこあった。

 会社じゃないのに電車に乗ってわざわざ湊君に会いに行くのって変な気分だな。

 電車に乗るとたくさんの乗客たちがいる。

 その中にはカップルっぽい人も多いけど、皆どこに行くんだろう。

 駅前はデパートや量販店があるし、少し歩けば映画館もある。ゲームセンターとかカラオケもあったっけ。美術館もあったなぁ。美術はあんまり興味ないけど、湊君、絵を描いてるからそういうの好きなのかな。そう言う話、したことないけど。

 結局、湊君とどこに行こうかなんて何にも考えられなかった。人が多いところには行きたくない、だけは決まってるんだけど、それだと毎回家デートよね。それもどうかと思うしなぁ。

 映画くらい行く…?

 私は仕事柄、映画を見ることは多い。会社の福利厚生で年に六回、安く見られるっていうのもあるんだけど。

 何かいいのあったかなぁ……ぱっと出てこないってことは、私の好みじゃないって事かな。映画、最近見に行けてないしなぁ。とりあえず向こうについたら調べるか。

 その時、スマホが震えたので何か確認すると、湊君だった。


『改札前で待ってるね』


 なんて書いてある。

 あ、迎えに来たんだ。そういう話はなかったからそのまま家に行こうと思っていた。


『わかった。もうすぐ駅着くよー』


 と返すと、了解、を表すスタンプが返ってくる。

 すぐに駅に着き、電車はたくさんの人を吐き出して、階段へと集まっていく。

 階段を上り改札の外へ出ると、そこには壁際にたくさんの人が待っていて、その中に湊君の姿を見つける。

 藍色のTシャツを着た彼は、この間と同じように女性と話していた。

 なんなんだろう、あれ……今時ナンパなんてある? 嘘でしょ?

 湊君は笑顔で彼女を見送ると、私に気が付いて手を振ってきた。

 ちょっと複雑に思いつつ、私は彼に歩み寄る。


「灯里ちゃん、こんにちは」


「うん……こんにちは。あの、さっきの女性は……」


「ただの勧誘だよ。こういうところに立っていると声かけられること多いんだよね」


 なんて言ってへらっと笑う。

 勧誘って……そういえばなんだっけ、デート商法とか聞いたことがあるような気がする。


「この間も声かけられていたよね。昔からそんな感じだったの?」


 平日は毎日駅前歩いてるけど、私、ほとんど声かけられたことない。

 湊君はうーん、と呻った後、にこっと笑って言った。


「覚えてないけどそうかも」


 覚えてないんだ。

 まあよく声かけられるみたいだからいちいち覚えていられないか。

 私はその言葉に笑うしかなく、それ以上突っ込む気はなく適当に頷いた。


「そうなんだ。ねえ、せっかく出て来たならカフェで飲み物買っていっていい?」


「うん、いいよ」


「じゃあ行きましょう」


 駅ビルには二軒ほどチェーンのコーヒーショップがある。

 その一軒に私たちは向かった。


「学生の時に行ったわよねー。飲み物買って一時間くらい課題やったりして」


「そんなことあったね。よく考えるとあれって迷惑だったよね」


 その湊君の言葉に私は頷く。確かに、あの時はそこまで気にしていなかったけど、勉強禁止のカフェも見かけるし時間を制限しているお店も多いのよね。 


「そうねぇ。卒業してからはあんまり行かなくなっちゃったし、店内で過ごすなんてなくなっちゃったけど」


「俺、行くの卒業以来かも。あんまり昼から活動しないし」


「いったいどういう生活してるのよ」


「うーん……基本家で仕事してるから朝早く起きる必要もないしね。昼前に起きるのが常だよ。灯里ちゃんは朝から仕事してるんでしょ?」


「当たり前でしょう」


「俺、絶対そういう生活できないもん」


 たしか、大学生の時はちゃんと朝から大学来ていたと思うし、バイトもしていましたよね、貴方。

 まあ午前中、寝ている生活を続けていたらそりゃあ朝から活動なんてできないか。

 そう納得して、私は頷きキャラメルカフェオレを飲む。

 牛乳と生クリームたっぷりで、キャラメルソースがかかっててすごく甘くておいしい。

 湊君は水出しコーヒーだ。


「じゃあ、どこかに行くとしても朝からって厳しそうね」


 すると湊君は笑って頷く。


「ははは、そうだねー。今までだって午前から活動したことなんてないもん。だって、ご飯や飲みに行ったあとホテルに行っていたから」


 それはセフレとって事よね。なんだろう、ちょっとイラッとしてしまうのよ、貴方のその話を聞くと。

 これって嫉妬なのかな。そこはよくわかんないけど呆れてもいる。

 いったいどういう生活してきたんだろう、この人……っていうか、経験人数何人?

 病気とかうつされてないでしょうね、ちょっと心配になってくる。


「ねえ、湊君。その生活何年続けてたの……?」


 おそるおそる聞くと、湊君は指折り数えだす。そしてにっこりと笑って、手のひらをこちらに見せてくる。


「五年くらいかな」


 つまり二十歳くらいからそんな生活していたのか……おかしいな、全然気が付かなかったっていうか、そんな話一度も聞いたことないんだけど。


「ってことはいったい何人と寝て……?」


 彼の様子を伺いつつ尋ねると、湊君は笑顔のまま黙り込んでしまう。

 これは言いたくないって事なのか、それともわからないのかどっちらなんだろうか。

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