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第10話 アイスリクーム

 どこに行きたいか考えておかないとな……きっと、彼は何も考えられないだろうし。

 そんな話をしているうちに列は進んでいく。

 三十分ほど経過しただろうか。やっと私たちが店内に呼ばれた。

 前のお客さんが注文している間に私たちも何を頼むか決めようと、店員さんに渡されたメニュー表を見る。

 ふつうのバニラにチョコレート、さっき湊君が言っていた黒ごまおいしそうだし、期間限定のメニューにも心惹かれる。

 価格はだいたい五百円から七百円くらいまででちょっと高い。どのアイスもパフェみたいな盛り付けで、すごくおいしそうに見える。

 通常メニューが十五種類ほどあって、それに期間限定のメニューがある。


「抹茶だらけもおいしそうだし、生チョコも心惹かれるんだよねー」


「そうねぇ……どれもおいしそうよね。うーん……私は黒ゴマアイスにする」


 言いながら私はメニューを指差す。

 悩むけどこれにしよう。


「俺はこの期間限定のチョコバナナにするよ。やっぱり期間限定って言葉に心惹かれちゃうんだよねー」


 そんな話をしていると前の人の会計が終わり、私たちに声がかかる。


「いらっしゃいませ。ご注文をお願いいたします」


「俺はチョコバナナで」


「あと黒ゴマアイスお願いします」


 注文と支払いを済ませて出来上がりを待つ。

 辺りを見ればカップルの姿が多く、出来上がったアイスを手にして楽しそうに写真を撮っている人が目立った。

 時間はすでに五時半を過ぎているけれど、外はまだ明るい。こんな時間にアイス食べたら夕食遅めにしないとなぁ。


「ねえ、湊君て食事ってどうしてるの?」


「ひとりだから自炊はあんまりしないよ。朝ごはんだけ作って、あとは買って済ませてる。ほら、買った方が安かったりするじゃない?」


「それは確かにそうね。私もあんまり自炊しないなぁ」


 作ったとしてもウィンナーを焼いたり卵を焼くくらいだ。

 今日は帰りにお弁当買って帰ろうかな。アイスを食べて帰ったら、七時近くになるだろうし。


「そうだよねー。仕事してたら作るの面倒になっちゃうし」


 なんて話をしながら私たちはアイスの出来上がりを待った。


「十一番のお客様、お待たせいたしました!」


 声がかかり、私たちは出来上がったアイスを受け取った。

 透明なカップの底にシリアルが敷き詰められていて、グレーの黒ゴマアイスが盛り付けられている。

 それに、ウエハースがスプーンが刺さってる。

 店内にはちょっとしたカウンターがあって食べられるようにはなっているんだけど、正直狭いしお客さんが多い。

 私は湊君に向かって言った。


「店内は混んじゃうから外出ようか」


「うん、わかった」


 アイスを片手に外に出ると、むわっとした空気が肌に纏わりつく。

 早く食べなくちゃ。

 そう思い、歩行者やお店の邪魔にならない様に歩道の片隅に立ってアイスを口にする。

 思ったよりもゴマの味が濃くておいしい。

 湊君のアイスは、白いソフトクリームの間にバナナが挟まれていて、上にはカットされたバナナが刺さり、そこにチョコレートソースがたくさんかかっていてさらにスプレーもかけられている。見るからに甘そうだ。

 湊君はバナナをひと口食べてにこっと笑った。


「バナナおいしいー」


「チョコレートソース多くない?」


「うん、それがすごくおいしいよ」


 と答えてアイスを口にした。


「アイスもおいしいね。ねえ、全然お店の前、列が短くならないね」


「そうねー。土曜日だからしばらくこんな感じでしょうね」


 列は短くなるどころか伸びているように見える。

 一時間待ちが普通ってレビューで書かれていたけど本当だったな。

 さすがに日が暮れ始めているけれど、気温は下がりそうにない。アイスを食べながらじっとりと汗が流れてくる。


「ねえねえ、また来てみる?」


 問われて私は、半分になったアイスを見つめてちょっと考えてしまう。


「そうねぇ……来るなら今度は遅い時間か、平日がいいなぁ」


 わりとこういうのって一度食べたら満足しちゃうのよね。


「機会があったら来ようか」


 という無難なことを言うと、湊君は頷いた。

 アイスを食べ終えてごみを店内のごみ箱に捨てる。そこで時間を確認すると六時を過ぎていた。


「じゃあこれで私、帰るね?」


 今からだと六時半くらいの電車になるなぁ。

 湊君は私の言葉を聞いて驚いた顔をして言った。


「え、帰るの?」


「帰るわよ。だってもう六時過ぎてるし」


「まだ六時過ぎなのに?」


「うん帰る。さすがに帰る。それにだって、湊君、荷物おおいでしょ? それ持ってご飯にいくつもりなの?」


 そう私が言うと、湊君は自分がもつ荷物を見つめて笑って言った。


「そうだった。イラストボードとか買ったんだよね」


「さすがにそれだけの荷物持って食事には行かないし、家に寄るつもりはないから帰るわよ」


「わかった。じゃあ、駅までは送っていくよ」


 別にいいのに、と思ったけれどその提案は受け入れて私たちは駅に向かって歩いて行った。




 アパートに着き、私はご飯を食べるよりも先に今日買ってきたものをテーブルに広げた。

 夕焼けみたいなガラスペンに赤と青のインク。見てるだけでテンションが上ってくる。

 私は早速前に買ったガラスペンの練習帳を広げた。

 ガラスペンの使い方を調べながら、私は試しに文字を書いてみる。

 赤いインク、きれいだなぁ。あー、見てるともっと欲しくなっちゃう。

 湊君は今日買った画材で何を描くんだろう。

 しばらくしたら聞いてみようかな。

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