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第7話 初デート

 翌日。

 土曜日の朝に私は早起きなんてしない。仕事が休みの日なんてだらだらしたいに決まっているもの。

 九時過ぎに起きて着替えもせず顔を洗い、キッチンに向かう。

 一DKの広くもないアパートのキッチンで、私はパンを焼きカットキャベツとハムを皿にのせ、コーヒーを落とす。

 そして部屋の隅に置いてある小さな仏壇にお水のコップを置き、手を合わせた。

「おはよう。今日も一日よろしくね」

 両親の位牌に挨拶を済ませると、私は座卓に用意した朝食を並べてテレビを点けた。

 流すのは毎週録画しているサスペンスドラマだ。

 私はそれを見ながらぼんやりと朝食を食べた。

 マグカップに入れた濃い目コーヒーはたっぷりの氷と牛乳が入っている。

 私はそれを飲みながら、焼いたトーストにキャベツとハム、それにマヨネーズをかけて食べる。

 明日お出かけかぁ……何着ていこうかなぁ……

 いつも最初のデートはドキドキしたっけ。新しい服買ったりしたこともあったなぁ。でも最近は、心のどこかでまたきっとだめだろう、って思うようになって、そこまで気合い入れるようなこともしなくなった。あんまり服も買わなくなっちゃったしな……

 でも明日は湊君とデートだ。

 だめだ、湊君ならなんでもいいや、って思っちゃう。だって学生の時一緒に出掛けていたけど、服装なんて大して気にしたことないんだもの。でもダメでしょ、それじゃあ。とりあえず恋人、なんだから。うーん、どうしようかなぁ。ボーナス出たばかりとはいえ服買う気、なかったしなぁ。それよりガラスペンほしいし……それに、服のために外に出たくない。

 夏。連日猛暑日と言われ、四〇度近い気温を記録していてこの時間でも外はきっと暑いだろう。

 スマホで天気予報を見れば、出かける気は消え失せてしまう。

 いいや、うちにある服で済ませよう。なんかあるでしょ。新しい服は……うん、また今度にしよう。

 今日は引きこもりしてよう。そうしよう。

 そう決意して、私は今日は何を見て過ごそうかと考えた。

 日曜日。

 約束の日が来たけれどもちろん早起きなんてしない私は、昨日と同じく九時過ぎにだらだらと起きた。

 カーテンを開けて外を見ると、太陽がこれでもかってくらい強い日差しで地上を照らし、地上を焼き尽くそうとしてるかのようだ。

 私は何も見なかったことにしてカーテンを閉めて、エアコンのきいた部屋で朝食の用意をした。

 私は約束の時間までサブスクで海外ドラマを見て過ごし、一時半過ぎになってようやく着替えをして髪を整え化粧をした。

 ジーパンに淡いピンク色のTシャツ、それにUVカットのグレーの長袖を羽織り、帽子を被る。

 首には小さな十字のネックレス。

 マニキュアも塗って、ちょっと気分があがる。

 外が暑いからこれくらい気合を入れないと外に出る気持ちがどんどん萎えてしまうのよね。

 夏はほんと苦手。できれば一年中秋がいいな。春は花粉があるから嫌だし、梅雨は雨が多いから外に出るの面倒になっちゃうから。

 鏡で自分の格好を確認して、

「よし」

 と呟く。

 おしゃれ、ってことはないけれど無難な格好だろう。

 でもあんまりデートっぽくない気がする。なんていうか、友達にあう時の服装だ。

 数年会っていなかったとはいえ湊君は友達だったわけだから、そう簡単に意識は変わんないよねぇ……

 湊君と恋人ってなんだか居心地がよくない。まあ、そのうち慣れるだろうけれど、化粧も薄いな……

 そうは思うものの服を変えたり化粧を濃くしよう、という気力は全然起きなくて私は気合を入れて外に出た。


 わかってはいたけれど暑い。蝉の鳴き声が体感温度を三度は上昇させているように感じる。

 きっと駅に着くまでにからっからになるだろうな。

 駅近くのコンビニでペットボトルのお水を買って、私は最寄駅に向かった。

 十分ほど電車に揺られて、私は会社近くの大きな駅にたどり着く。

 日曜日という事もあり人が多い。

 高校生とか大学生とおもわれるカップルが手を繋ぎ目の前を通り過ぎていく。

 若いなぁ……

 駅のコンビニ前でいちゃつくカップル、キスしてたような気がするけど気のせいかな……

 そんなことを思いつつ私は立ち止まり、スマホを手にして湊君にメッセージを送った。

『もうすぐ着くよ』

 するとすぐに既読が付く。

『あぁ、俺ももうすぐ着く』

 時刻は二時五十分。湊君、時間ちゃんと守るんだな。

 私はスマホをショルダーバッグにしまい、約束のデパートへと向かう。

 そのデパートは私が生まれるはるか前からある有名なデパートだ。

 価格帯が高いから私は滅多に行かないしひとりで入る勇気もあんまりないけど、せっかくだから見に行きたい店がある。

 デパートの一階、駅側の出入り口のそばに湊君の姿を見つける。

 彼は黒の綿パンに、薄いグレーのTシャツ、それに黒の七分袖のパーカーを羽織っていた。

 彼の目の前には見知らぬ女性がいる。な、なにあれ。知り合いか何かかな。

 何かやり取りをした後、湊君はにこっと笑って彼女と別れ、立ち尽くす私のほうに気が付くと手を振った。

「灯里ちゃん」

「湊君……こんにちは。あの、今の人は……?」

 彼に歩み寄りながら私は人ごみの中に消えていった女性のことを尋ねる。

 顔はよくわかんなかったけど、スレンダーな人だったな……

「あぁ、暇ですか? って言われたんだけど断ったんだ」

 それは勧誘? ナンパ? それとも……?

「そ、そうなんだ……」

 なんだろう、複雑な気持ちになってしまう。

 黙っていてもあちらから寄ってくる、みたいなこと言ってたけどちょっとここに立っているだけで声かけられるってどういうことなのよ。

「俺には灯里ちゃんがいるしね。ねえ、どこ行くの?」

 湊君、人を引き付ける何かを出しているのかな。

 先行き不安だなあ……ほんと。

 そんなことを思いつつ、私はデパートの上を指差して言った。

「ここの六階にいって、お店見てカフェに行って、アイス食べに行く、かな」

 湊君が何か考えるわけがないので、私は自分がしたいことを並べてみる。

「わかった。で、六階のなんのお店みるの?」

「文具屋さん」

 私が笑って言うと、湊君は不思議そうな顔をした。

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