アパートまで湊君に送ってもらい、洗濯してもらったブラウスを干して私はベッドに突っ伏した。
あー、なんか疲れたなぁ。
今日が金曜でよかったー。
明日会社だったら私、行けなかったと思うもの。
うなりながらスマホを開くと、千代からメッセージがきていた。
『大丈夫? 家帰れた?』
『大丈夫だよー。さっき家についたところ』
『災難だったねー。それであの男の人は何者なの?』
そのメッセージに私はなんて返そうか悩んだ。
さすがに恋人になりました、って言えない。
急すぎるしそんなこと言ったら心配されそうだ。
『ただの昔の友達だし、大学生まではよく家にもお互い行ってたから大丈夫だよー』
という無難な答えを返す。
『ならいいけど。お酒ぶっかけられるなんてそんなことほんとにあるんだねー、なんか漫画みたい』
『ほんとそれ! そんなことある? って感じだよね』
あの女の人が何者なのかわからずじまいだけど、まあいいか。ブラウスはシミになっていなかったし、きっともう会うことはないだろう。
千代は彼のことについてつっこんでこず、そのままメッセージのやり取りが終わる。
湊君の事を千代に話すのはもう少し先にしよう。
それはそうと湊君に恋の仕方を教えるって、何したらいいんだろう?
ふつうに恋人っぽいことしたらいいのかな。
ならまずデートよね。
行きたいところ……と思っても特に思いつかない。
デートってどこに行くんだろう……とりあえず検索してみよ。 カラオケ? 映画? 美術館? 博物館?
うーん、どれもぴんとこないなぁ。
考えてみれば私、ふつうの人と付き合ったことがないから、普通のデートがわからないかもしれない……
色々と頭に浮かぶけど、どれもいまいちピンとこない。
映画もカラオケも、湊君と行ったことあるしなぁ。ふたりきりだったり、複数人だったりしたけど。
……友達と何が違うんだろう。
そう思うと尚更なにも思いつかなくなる。
でも、恋の仕方を教えると約束した以上、どこかに誘おうと思い湊君にメッセージを送ることにした。
『送ってくれてありがとう。借りた服、今度洗って返すね』
すると、すぐに返信が来る。
『いつでも大丈夫だよ』
『ところで湊君、日曜は時間ある?』
『あるけど、どうしたの?』 どうしたの、じゃないでしょうに。
『ほら、恋人ならデートでしょ?』
と送ると、びっくりした顔のスタンプが返ってくる。
『デートって何するの? ホテル?』
……こんな人じゃなかったと思うんだけどな、学生の時。
なんでデートイコールホテルになるのよ。
『んなわけないでしょ? カラオケとか海とか山とか色々あるでしょ』
『あー、考えたことなかった。だいたいご飯いったらそのままホテルだったし』
いったい何があればそういう発想になるのよ。なんか頭いたくなってきた。
『そういえば灯里ちゃんたちとは学生の時いろいろ行ったよね。夏休みに海いったり』
『そうそう、そういうやつ』
『俺はどこでもいいけど、灯里ちゃんはどこか行きたいところある?』
まあそうなるよね?
私が考えることになるよね。わかってはいたけどどうしよう……
『ない』
素直にそう返すと、笑ってるスタンプが返ってくる。
行きたいところ……行きたいところ……じゃなくって、行けそうなところ。
……
…………
そうね、行きたいなーと思っていて、でもひとりで行くにはって所ならあるかな……
『アイス食べたい』
『アイス?』
『夕方からやってるアイスクリーム屋さん。一時間は並ぶらしいし、ひとりじゃ並びたくないし、そこまで食べたいわけじゃないけど、ふたりなら行けるかなって』
『そんなお店あるんだ』
半年くらい前に駅の近くにできたお店で、確か、午後五時くらいからやってるらしい。
とてもお店は小さくて、かなり並ぶから行ったことはないんだよね。会社帰りに通りがかるけどいつも行列ができている。
一時間も並んで食べたいか? と聞かれたらそこまでじゃないし、でも行ってみたいとは思ってる。
『じゃあ、夕方に待ち合わせる?』
『他に行きたいところはないからそれで。あとは駅前のデパートでも見に行こうかなーてかんじだけどどう?』
『大丈夫だよ。俺、デートって行ったことないからよくわかんないし』
ですよね、知ってた。
大丈夫かなこいつと付き合って。
この先もずっとこんな感じになるのかなぁ。それはそれで疲れちゃうから、一緒に決めるようにしていけたらいいなぁ。
でも今は私がリードするしかないんだよね。
『とりあえず、三時に駅前のデパートの一階で待ち合わせでいい? 暑いから外は嫌だし。せっかく外出るならデパートで見たいものあるの』
『いいよそれで。じゃあ日曜日に』
そこでメッセージのやり取りが終わる。
さっそく明後日、出かける約束を取り付けたものの、アイス食べてうろつくだけか……
昔の好みは知っていても今の好みを知らないから映画とか誘いにくしい。
でも今の様子だと誘えば興味なくても来そうな気がする。
別に見たい映画、ないけど。
「……とりあえず、お風呂入ろう」
そう声に出して、私はスマホを枕元に置いてベッドから起き上がった。