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第3話 再会して彼の部屋へ

 湊君が住むマンションは、駅から歩いて十分位の所にあった。

 湊君、学生時代とはずいぶんと違う場所に引っ越したんだなぁ。あの頃は大学のそばで駅からは距離あるところに住んでいたっけ。だからよく彼の家に集まってゲームしたり飲み会していたんだけど。

 ていうか、駅近くのマンションに住めるとかどんだけよ?

 マンションの三階、三〇三号室が彼の部屋だった。

 カウンターキッチンの広いリビングに、紺色のふたり掛けのソファーと大きなテレビが置かれている。

 食卓はないから、きっとソファーの前に置いてあるテーブルでご飯、食べているんだろうな。

 ひとりでは持て余しそうな広いリビングだ。

 部屋の角にはパソコン用デスクが置かれていて、そこにはモニターがふたつも置いてある。 

「あんなところで灯里ちゃんに会えるなんて運命感じるなあ」

 私に着替えのTシャツを差し出しながら、湊君は戯言を言った。

 そんなこと微塵も思ってないくせに。

 そう思いつつ私はTシャツを受け取り、彼の寝室を借りて着替えることにした。

 湊君は見た目がいいのに浮いた話はほとんどない。

 しかも私に向かって、

「灯里ちゃん見てると、恋人なんていらないやって思っちゃう」

 と言ってきたやつだ。

 そして私が把握してる限り、こいつは恋人なんていたことがない。

 そしてそれは私のせいであるはずもない。性格に問題があるからでしょ、と言ったこともあったっけ。

 そんなことを思い出しながら、私はTシャツと一緒に渡された洗濯ネットにワインで汚れてしまったシャツを突っ込み、それを湊君に預けた。

 洗濯してくれるって言うのでその言葉に甘えることにした。

 洗濯が終わるまではここにいさせてもらうことになり、私はソファーで一息ついた。パソコンデスクの横には大きな本棚があって、漫画や画集みたいな本が詰まっている。そういえば湊君、イラスト得意だったっけ。パソコンの所に置いてあるタブレット、あれ液晶タブかな。お絵かきするのに便利なやつ。湊君、何の仕事してるんだろう。全然想像できないや。

 そこに、湊君が冷たいお茶の入ったグラスを持ってきてくれた。

「あ、ありがとう」

 言いながら私はグラスを受け取り、それに口をつけた。

 麦茶かと思ったけど違う。何だっけこれ……ルイボスティーかな。

 湊君は私の隣、ではなく床の座布団に座るり、お茶を飲んだ。なんだろう、この微妙な距離感は。

「ねえ、なんであんなところでワインぶっかけられたの?」

 一番気になることを尋ねると、彼は笑いながら言った。

「えーと、それはね、恋人にはなれないけど身体の関係ならいいよ、て言ったんだ。そうしたら怒っちゃって」

 ……今こいつなんて言った?

 身体の関係ってどういう……えーとセフレって言うんだっけ。そんなの漫画やドラマの中だけの存在だと思っていたけど本当にいるの、そういうの。

 内心呆れつつ、私はあの女性の事を尋ねた。

「相手の女性、いったい誰よ……?」

「名前は忘れたけど、何日か前に街で声を掛けてきた人」

 ……今どきナンパなんてあるんだ。

 名前を忘れた、というのは湊君っぽい。他人にあんまり関心ないんだもんね。それ考えるとよく私の事、覚えていたなぁ。

「ちょっと待って? じゃああの人と会ったのは今日で……」

「二回目だよ」

 二回目でセフレどう? みたいなこと言ったのかこいつ。大丈夫この人? こんなやつでしたっけ。異性関係までは知らないからわからないや。

 ちょっとひくんだけど?

「それはお酒かけられるわ……」

 呆れつつ言い、私はお茶を飲んだ。

 それで被害に合ったのは私なんだけど。迷惑な話よね。

「そうなの? 僕にはよくわからないけど、今までそれでもいいって人は何人もいたし」

 湊君はそんな事を言い、首をかしげる。

 この人の倫理観どうかしちゃったのかな?

 こういう人だったっけ……

 いいや、学生のときは普通だったと思うけどなあ……

 変な噂も聞いたこと……

「あ」

 そこで私は昔の事を思い出す。

 大学のとき、誰かが湊君のことをヴァージンキラーとか言っていたっけ……

 その時は意味がわかんなかったし、なに馬鹿なこと言ってるんだろ、と思って聞き流したけど。

「ねえ、湊君」

「何?」

「大学のときからそんな感じなの?」

「そんな感じって何が?」

「えーと……セフレ、って結構いたの?」

「ううん、決まった相手はいたことないよ。一回だけとか多かったかなぁ」

 そうにこやかに笑いながら言い、彼はグラスに口をつけた。

 ……思った以上にこいつどうかしていた。

「恋人は……」

「いたことないよ? だって、灯里ちゃん見ていたら付き合ってもろくな目にあわないし、だから恋人はいらないかなって思ったんだよね」

「だからってなんでセフレなの」

 半眼で湊君を見つめながら、私は呆れて言った。

「セフレならセックスだけで済むじゃない? それ以上の関係はないし、割り切った関係でストーカーされることも執着されることもないもの。楽でいいよ?」

 そうなのかな……だめだ、私には理解できないじゃない。湊君とは中学からの付き合いだけど、こんなに倫理観がどうかしてるやつとは思わなかった。

 私は首を横に振って言った。

「いやおかしいでしょ」

「そうかなあ。だって、灯里ちゃん、付き合うたびに傷ついて泣いたりとか怯えたりしていたじゃない。そんな目にあう位なら、割り切った関係の方が楽じゃないかな」

 なんて言い、湊君は頬杖ついて私を見つめる。

 いや、まあ確かにそうだったけど。私、付き合うたびにろくな目にあってこなかったけれども。

 でもそれだとやっぱり私のせいみたいじゃないの。

「そ、それじゃあまるで私のせいで恋人できないみたいじゃない」

 それはそれで癪だ。っていうかひどい言いがかりだ。

 すると湊君はうーん、と呻って、

「灯里ちゃんが幸せそうな姿って見た憶えないもん」

 と言い、湊君は目を伏せる。

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