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恋人ごっこ
あさじなぎ
恋愛現代恋愛
2024年07月09日
公開日
138,925文字
連載中
「灯里ちゃんを見てると恋人なんていらないな、って思っちゃう」
中学時代からの友人にそこまで言われる灯里は付き合う相手がことごとくメンヘラ化する、通称「メンヘ◯ほいほい」
会社員になった今でもそれは健在で、マッチングアプリで出会ったばかりの相手からしつこく電話やメッセージを送られる。
またか、と思いサクッとブロックして同僚と飲みに行った先で客からお酒をぶっ掛けられてしまう。
そこで再会したのが、中学からの同期生で「メンヘ◯ほいほい」というあだ名をつけてきた湊だった。
「恋ってしたことないんだ。ねぇ灯里ちゃん、恋の仕方、教えてよ」
灯里は貞操観念が壊れている湊と一年限定で「恋人契約」を結ぶことになる。
果たしてふたりの恋の行方は?

第1話 また変な男に捕まった

 家に帰っても誰もいない。そんな生活にはもう慣れた。

 私、森崎灯里もりさき あかりは今年で二十五歳になったんだけど、家族はすでにいない。

 帰ったら誰かがいる生活に心のどこかで憧れを抱いている。だけど人生ってそううまくはいかないのよね。

 七月十三日金曜日。

「あー、やっとお昼」

 私は大きく息を吐いて、スマホの通知を確認した。

 な……何これ?

 スマホを見ると、とんでもない数の通知が溜まっていた。

 嫌な予感を抱きながらロックを解除してアプリを開くと、二か月前、マッチングアプリで知り合った男性の名前が表示された。

 着信とメッセージの数どちらも数十件。

 九時の始業から十二時すぎまで私はスマホを見ていなかった。たった三時間でこの数ってどういうこと?

 やだ、手が震えてくる。またなの? また私、変なのにひっかかっちゃったの?

『おはよう、今仕事?』

『仕事はどう?』

『ねえ、なんで電話でないの?』

『なんでメッセージ確認しないの?』

 なんていうメッセージが数分刻みできている。

 ……な、な、な、何これ? 仕事中じゃないの? たしか接客業って聞いたんだけど……こんなにメッセージ送れる?

 あまりの多さに寒気を覚えていると、背後から声をかけられた。

「灯里、今日はお弁当?」

「きゃっ!」

 思わず悲鳴を上げてびくびくと振り返ると、そこには短い黒髪に眼鏡をかけた、同期の篠田しのだ千代ちよが立っていた。

 私の反応を見た彼女は首を傾げ、不思議そうな表情で言った。

「どうかしたの?」

「え、あ……そ、それが……」

 私が大量の着信について伝えると、千代は顔をひきつらせる。

「またそういう男引き寄せたの?」

「だって……最初は普通だったんだよ?」

 アプリで知り合って何度かメッセージのやり取りをして、いいなと思って顔を合わせたのが一週間前だ。

 まだアプリで連絡のやり取りをしてるだけだし、本名は教えていないけど……こんなに早く豹変するのは久しぶりだ。

 私がこういうおかしな相手と知り合うのは初めてじゃない。

 就職して二年、つまり千代と私が知り合って二年になるわけだけど、その間にこの手の束縛男に引っかかったのは四回目だ。

 どうも私は男運がないらしい。

 中学の時から男運がなく、相手がストーカー化したこともあったし、暴力を振るわれて速攻で別れたこともある。

 当時の友人には、

「灯里ちゃんみてると恋人なんていらないや、って思っちゃう」

 なんて言われもした。

 そんな事言われても、私だって普通の相手と付き合いたいんだ。

 どの人だって最初は普通だったのに、なぜかメンヘラ化しちゃうんだもの。理由なんて私が知りたい。

「灯里……早くそれブロックした方がいいよ?」

 心配そうな顔で言われ、私はそうだ、と思いメッセージを送りブロックすることにした。

『私だって仕事をしていますしそんなにメッセージ返せないし電話に出られません。他をあたってください』

 よかった、メッセージアプリの連絡先しか教えていなくて。住所も知られていないし、企業名も伝えてない……はず。

 スマホをパンツスーツのポケットにしまい、私は深いため息をつく。

「なんでこんな人ばっかり見つけちゃうんだろ……」

「なんか引き寄せる電波でも出してるんじゃないの?」

 千代に苦笑いして言われ、私は首を横に振る。

「そんなの出てないし。あーあ、私早く結婚したいのになあ」

「いつもそう言ってるけど何で? そんなに早く結婚したいものかなあ」

「私、家族いないから」

 と答え、お弁当が入ったバッグを手に持った。

 私のお母さんは中学の時に、お父さんは大学生の時に死んだ。

 私に兄弟はいなくて、母方の叔母さんしか血縁者がいない。

 だから早く家族が欲しい、って思いが強い。

 ひとりってやっぱり寂しいんだよね。

 私の言葉に、千代は気まずそうな顔をする。

「家族いないって……」

「両親はとっくに死んでるし、だから私、実家ないんだよね」

 そういえば私、家族の話を千代にしたことがない。

 っていうかその手の話、避けてるんだよね、家族がいないから。

 皆が当たり前のようにする親の話や兄弟の話、私、できないんだ。

「そっか……だから早く結婚したいって事?」

「そーそー。家に帰ったら誰かいるっていうの、もうないからさ。それより早くお昼食べようよ」

 と言い、私は千代の腕を掴んで食堂へと向かった。

 両親のいない寂しさにはなれているけれど、でも家族には憧れるんだ。

 なのに私、ろくな男と出会えない。

 食堂でお昼を食べ終わり、お茶を飲みつつため息をつく。

 あーあ、メンヘラ化しない男の人ってどこかにいないのかなぁ……

 そう思ってまたため息。

 そんな私に千代が言った。

「ねえ灯里、今日仕事の後飲みに行かない?」

「え?」

 私は目を見開き千代を見る。

 隣に座る彼女はコーヒーが入ったカップを手にして言った。

「今日金曜日でしょ? ボーナス出たし行こうよ、飲みに。最近行ってないし。去年で来た駅近くのちょっとおしゃれなお店。行ってみたいって言ってたでしょ」

 そう言われ、私はちょっと悩んだ後、

「そうねえ……」

 と呟く。

 確かに最近飲みに行ってないしな、心は揺れ動く。

「また変なのに引っかかったしな……」

「そうそう、だからぱーっと飲んで次いくの! でも焦るとまたろくでもないのに引っかかるから気をつけなよー」

 心配げな顔をして千代は言い、カップに口をつけた。

 べつに焦っているわけじゃないんだけどなぁ……なのになんで変な男にばかりひっかかるんだろう。

 ちょっと傷つく。

 あー、そうね、そうしよう、飲んで忘れよ……

 そう思い、私は千代の提案に頷いた。

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