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第125話

「ど、どうしよう! 獏が大見得きっちゃったせいで戦わなきゃいけなくなっちゃった!」

「星川、いずれは戦う相手なんだ。時期が少し早まっただけだろう。落ち着け」

「で、でも……」

 不安そうな咲夜を宥める暁人。実際、俺も不安だ。だが、これは乗り越えなければいけない試練であることは間違いない。

「咲夜、大丈夫だ。一人じゃない。俺たちもおじさんのところに行って、対策を練ろう」

「漠……」

 咲夜は少し落ち着いたみたいだ。そのままの足で、俺たちは月谷ネットカフェに向かう。おじさんはいつも通り、あたたかく出迎えてくれた。

「おじさん、相談があるんだ」

「何だ急に。また奴らか?」

 俺は勢いよく頷く。そして、おじさんに事の経緯を説明した。

「……という訳なんだ。ごめん、慎重に出来なくて」

「気にするな、問題は今から練る策の方だろう。何か考えてあるのか?」

 今度は首を横に振る。おじさんは「そうか……」と呟いて考え込んでしまった。

「策、と言えるかはわからないけれど……。私の夢だから、私はある程度自由に動けるはずなのよ。それに、変身能力があるから天城妃奈の姿で彼に揺さぶりをかけることも出来るはず。これを作戦の一部に入れるのはどうかしら?」

「それが吉と出るか凶と出るか……。やってみないとわからないから、やってみよう。ナイス望月」

 時雨も対策はしてくるだろうが、天城妃奈の姿を追い求めていた過去を考えれば通用する可能性の方が高そうだ。

「他に何かないか?」

 これは、長い会議になりそうだ。ここで勝てば、奴らの核心に近づける。そんな気がしてならない。何故なら時雨は、天城グループの令嬢と付き合う権利があったのだ。ということは、下っ端ではない可能性が高い。叩きのめせば、情報を吐く可能性も十分にある。絶対に負けるわけにはいかない。


***


 深夜零時、いつもより緊張した面持ちで俺たちはネットカフェの奥スペースにいた。これから決戦だということで、手に汗がにじんでいる。

「じゃあ、私が先に寝るわね。部長たちは後から来て頂戴」

 望月は横になると、目を瞑った。作戦の最終確認をしている間に、寝息が聞こえ始める。

「……いくか」

俺たちも横になると、目を瞑った。月影が先導してくれたので、すぐに望月の夢に辿り着いた。

「遅かったわね、彼はもう着いてるわよ」

 望月の姿は、あの事故の時見た姿になっていた。赤みがかったロングヘアが印象的な、ぱっちり二重の女性。これが天城妃奈か……と見入っていると、時雨が視界に割り込んできた。

「望月、その姿をまだ覚えていたんだな。完璧なまでに妃奈だよ」

時雨の目線は望月に固定されている。これはチャンスだ。咲夜がBB弾で攻撃を仕掛ける。夢の外ではただの玩具でも、中なら攻撃道具だ。しかし、時雨はその攻撃をかわした。

「星川、攻撃が単調なんだよ」

「デコレーター!」

 時雨が鼻で笑おうとしたところに、暁人が能力を発現させる。時雨の真下に大きな穴が開いた。

「うおっ!? ……と、中々危ないじゃねえか夜見。俺じゃなかったら本当に落ちていたかもな?」

 目を疑ったが、時雨は宙に浮いていた。夢だから多少は何でもアリだと思ったが、これは想定以上だ。

「……もう、終わりにしましょう。時雨さん」

 そう口を開いたのは望月だった。役になりきっているのか、口調は普段と違うが。

「妃奈、何言って……俺はお前の為に……」

「私はあの時、間違いなく死んだのです。いつまでも私に執着せず、新しい恋人を見つけてください。それこそが、私の願いです」

「妃奈……」

 時雨の頬を涙が伝った。目の前の妃奈は望月だと、わかってはいるのだろう。だが、人間は視覚に囚われる生き物だ。亡くなった恋人が口調もそっくりそのまま現れたら、それだけでも情緒はかき乱されるだろう。

「チェックメイトだよ、清水時雨。今ここで、トワイライト・ゾーンの情報を吐くなら、解放してあげる」

 玩具の銃を、時雨の胸元に押し当てる咲夜。

「そんな簡単に情報を吐くと思うなよ。お前ら、夢の能力があるのは自分だけだと思ってるだろ?」

「……」

 そう思っていたことは否めない。

「馬鹿だな、まあ教え子だからそういうところも多少は可愛いけど。俺たちだって能力は使えるんだよ。こんな風に……な!」

時雨の姿が消えた。と、思ったら望月の方に移動している。

「!?」

咲夜は何が起きたのかわからないといった様子で、その場に立ち尽くしている。

「さて、誰からいこうか……。星川の能力は厄介だから、そこからだな」

 時雨は、再び姿を消した。と、思ったら今度は咲夜の背後をとった。早い。動きがあまりにも早すぎる。

「……瞬間移動じゃないか?」

 暁人が呟く。

「え?」

「奴の能力だ。きっと、あの事故の時もその能力で助かったのだろう。それに今の立ち回り、能力以外の言葉では片づけられない」

 確かに言われてみれば、あの動きの早さは俊足ではなく瞬間移動なのだろう。暁人の分析に納得する。

「どうする星川、形勢逆転だな」

「……っ、女の子相手に卑怯だと思わないの⁉」

 時雨は咲夜を突き飛ばし、地面に転がす。その上で咲夜の持っていた銃を拾い上げ、頭に押し付ける。

「まずは一人——」

「デコレーター!」

咄嗟の判断だったのだろう。暁人の息が荒くなっている。咲夜はというと、床がせりあがったところに乗っていたため無事だった様だ。とりあえず、少しほっとした。すぐに気を引き締め、時雨の動向を観察する。誰から始末するか、考え込んでいるみたいだ。視線が俺たちに向いている。負けじと睨み返すも、効果はない様だ。

「……夢野、リーダーはお前だろ。ここはひとつ、夢野との直接対決といこうじゃないか。誰も手だしするなよ。これは、これからの明暗を左右する大事な一戦だからな」

 時雨は意外にも、この戦いに真摯に向き合っている様だ。

「わかった。俺が相手だ。来い、清水時雨!」



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