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第121話

 放課後。月谷ネットカフェには俺たちの方が早く着いていた。

「それにしても、本当に部長は来るのか?」

「わからない……連絡がないから向かってきてるのかもわからないし」

 月影の連絡は、昨日の時点で途切れている。昼にメッセージを入れたものの、既読にはなっていない。

「部長が来ないことには何も始まらないわ。こちらから迎えに行くのはどうかしら?」

「でも、それだと仮に向かってきてた時に入れ違いになっちゃうかも……」

 望月と咲夜、どちらの言うことも一理ある。

「じゃあ、こうしよう。月影を迎えに行く二人と、ここで待つ二人。これなら行き違いになっても後者とおちあえるだろ?」

「確かに……」

「だが、誰が迎えに行くんだ? 僕は部長の家の位置を知らないぞ」

 正直なところ、俺も知らない。俺と暁人は待っていた方が良さそうだ。

「私、わかるわ。前お呼ばれしたことがあるの」

「獏と夜見くんはここで待ってて! 私とネルミで行ってくるから」

 女性陣の頼もしさには頭が下がる。

「じゃあ、頼んだぞ。咲夜、望月」

「ええ」「任せて」

 二人はネットカフェを出て行った。取り残された俺たちは、やることもないので課題に手をつける。そこに会話は無かったが、居心地の悪さを感じることはなかった。


 三十分ほど経った頃だろうか。ネットカフェの扉が開いた。

「うぅ……星川さんって現実でも力が強いんですね……足も速いし……」

「そんなことないよ、まくらちゃんが軽いだけ」

 月影はどうやら咲夜に捕まったらしい。確かに月影の言う通り、咲夜は馬鹿力だ。望月は「これで全員揃ったわね」とまるでリーダーかの様な雰囲気を纏っている。

「月影、昨日は頭に血が昇っていたみたいだ。ごめん」

「夢野くん……いいですよ、そんなに気にしていないので」

 流石にこれは嘘だと俺でもわかる。その証拠に、月影の瞳は明らかに泳いだ。だがそれに言及することはせず、他のメンバーの言葉を待つ。

「ごめんね、まくらちゃん。昨日は私もおかしかったかも」

「星川さん……」

「私も、雰囲気に呑まれていたわ。ごめんなさい」

「望月さん……」

 全員の視線が暁人に集まる。彼は居心地が悪そうに、

「確かに、夢野たちの言う通り冷静さを欠いていたな。申し訳ない、部長」

 と謝ってみせた。プライドが高く、人に謝ろうとしない暁人が謝ったのだから今回の件は解決だろう。

「夜見くん、気にしていないから大丈夫ですよ。それにしても、先生の発言は気になりますが……」

「まさか、先生は奴らの関係者とか?」

咲夜が食い気味に言う。

「ない可能性ではないと思うわ。だって、そもそも副部長と先生が同じ部屋に居たこと自体がおかしいもの」

 言われてみればそうだ。能力者でもない先生が、研究所に監禁される理由はない。

「でも、先生に聞いたところで誤魔化されるだろうしな……」

「このことは秘密で調査を進める必要性がありそうだ。絶対、先生には悟られない様にしなくてはな」

 ここであーだこーだ言っても進まないことも確かだが、先生が仮にクロだとしてその事実を認めてくれるかどうかという問題もある。もっと証拠を集めなければ、厳しいだろう。

「とりあえず、今日は誤解が解けて良かったです! 明日からまた悪夢退治しましょうね!」

 今この瞬間だけは、月影の笑顔が見られただけで満足だ。



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