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第120話

 朝はすぐやってきた。眠気を押し殺しながら、学校まで歩く。こんなに眠れなかったのはいつぶりだろうか。結局あの後、一睡も出来なかった。授業中に寝てしまうかもしれないな、と思いながら歩き続けると声をかけられた。

「夢野くん、おはようございます。活動に精は出ていますか?」

「……まあ、ぼちぼち」

 浅野先生の問いを適当に躱しながら、教室に入る。そこに、月影の姿はなかった。時間ギリギリだし、今日は休むことを選択したのだろう。

「月影さんは今日は体調がすぐれないため、お休みだそうです。それではみなさん、今日も頑張りましょうね」

 月影が休みとなると、本当に謝る機会を逃してしまいそうだ。昼に連絡を入れてみよう。

 今日は移動教室もないことを確認し、俺は意識を手放した。


***


 俺を呼ぶ声が聞こえた。

「……野、夢野。昼休みだぞ」

「悪い、寝てた」

 声の主は暁人だった。恐らく部室に来ない俺を心配してきてくれたのだろう。く根は優しい奴なんだよな。

「昨晩は眠れなかったのか? 不甲斐ない。それでも貴様は副部長か?」

「そういうお前はどうなんだよ、眠れたのか?」

「目の下を見ればわかるだろう。眠れる訳がない」

 暁人の目の下には、クマができていた。普段はそんなことないのに。こいつ、もしかして一睡もしていないのか?

「喧嘩してもしょうがない、月影は来ていないんだ。とりあえず部室に向かいながら話すか」

「……そうだな」

 俺たちは教室を出て、部室棟へ向かう。生徒の往来が活発なので、怪しまれることもなく移動できるのはこの学校のいい点だ。

「部長、来ていないのか。やはり昨晩のことが影響しているのだろうか」

「だろうな。今まで何もなしに休むタイプじゃなかったから……そうだ、月影に連絡を入れようと思ってたんだ」

スマホを取り出し、月影に個別メッセージを送る。

『昨晩はすまなかった。もう一度話がしたい。放課後、おじさんのところで待ってるから』

 これだけ言えば十分だろう。後は、放課後おじさんのところに行くだけだ。部室の前に着いたので、ドアを開けると望月と咲夜がそこにいた。

「副部長、なかなか来ないから心配してたのよ」

「そうそう、また奴らに襲われたんじゃないかって!」

 確かに、奴らは相変わらず俺を狙っている可能性がある。呑気に寝ている場合ではないのだ。結果、余計な心配をかけてしまったし。自省する。

「悪い、結局あの後一睡も出来なくてさっきまで授業で寝てたんだ」

「そうだったんだ……」

 そういう咲夜も眠そうに目を擦っている。望月の方は全くの平常運転で、昨夜のことは実はなかったんじゃないかと思わせてくれる。

「まあ、何はともあれ。俺から月影に連絡を入れた。放課後はおじさんのところに集合で頼む」

「……わかった」

「じゃあ、解散!」

 昼休みを終える鐘が鳴る前に、俺たちは解散した。


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