深夜零時。月谷ネットカフェの中で暖を取りながら俺は一人で考えていた。人の認知を変える方法、奴らを見分ける方法……。点呼を済ませ、個室スペースで横になり目を閉じる。瞼の裏に月影の姿が浮かぶ。いつも通りの光景だ。
「こっちです~!」
月影の先導で進んでいくと、『北中』という表札が掲げられている家が見えた。今回の夢の舞台は、間違いなくここだ。
俺は他のメンバーに目配せし、ドアを開けた。
そこでは、言い争いが繰り広げられていた。双方激しく言い争っているからか、まだこちらには気がついていない様だ。
「だからおかしいって言ってるだろ。“普通”なら高校生なのに一緒に風呂入ったりなんかしないんだって」
北中先輩の主張は、ごもっともだ。だが、ここから弟たちの猛攻が始まった。
「いや兄貴、おかしいっていうけど実際俺たちそうしてきた訳だし」
「つーか“普通”って何?」
「朝飛も、時音くんとお風呂入ったりしてたでしょう?」
時音が誰なのかはわからないが、話はどんどん進んでいく。
「いつの話だと思ってるんだ! 第一、あいつとはもう絶縁済みだ」
やはり一筋縄ではいかなさそうだ。と、ここで先輩が咲夜に気がついた。
「星川じゃないか。どうして俺の家に居る」
「あぁ、いや、その……何ででしょうね……」
咲夜は言葉を濁した。今の先輩にはこの夢こそ現実で、だからこそ咲夜がこの場に居ることを不自然だと捉えてしまったのだろう。
「そうよ、誰だか知らないけど我が家の問題に首を突っ込まないで!」
過敏に反応したのは先輩の母親らしき人物。どこか引っかかる。違和感が、ある。
「お前、先輩の母親じゃないだろ」
「……何のこと?」
相手は怪訝な顔をしている。もう少しだけ詰めてみよう。
「トワイライト・ゾーンの人間だろって言ってんだよ。この夢を作ったのもお前だろ」
相手は口角をあげた。どうやら、俺の勘は間違っていなかったらしい。
「……どうしてわかったん? アタシの演技は完璧やったと思ったっちゃが」
相手の身体が発光したと思ったら、次の瞬間にはもう姿が変わっていた。そこに居たのは、鋭い目つきと長い金髪を併せ持つ美女だった。敵に美女というのもおかしいが……。
「俺たちなりに考えたんだよ、確かに名演技だとは思ったぞ。直前まで指摘するかどうか躊躇したからな」
「……アンタ、夢野獏やね? 東川が逃した……。ならここで、夢の中に閉じ込めちゃる!」
言うなり、金髪美女は蹴り技を入れてきた。すんでのところで避けると、今度は咲夜がBB弾の入った鉄砲を金髪美女に向けて発砲した。流石にそのスピードに反応できなかったのか、弾は左肩に命中した。
「流石、時雨が手こずるだけのことはあるわ……。この神谷
神谷天。それが彼女の名前らしい。これで闘志が削げるかと思ったが、逆に火をつけてしまったみたいだ。このまま戦うのは、人数こそこちらの方が多けれど良くない気がする。何故かというと、ここは人の夢の中だからだ。夢の破壊は、夢の主に少なからず影響する。となると、根本的な問題は未解決のままだが喰った方が良いのかもしれない。いや、そうするべきなのだ。だが、神谷の獰猛さに身体が動かない。
「副部長、何をしているの?」
「夢野、星川が引きつけている今のうちに能力を使え」
そんなことはわかっている。ああ、蛇に睨まれた蛙の気持ちが理解できる気がした。動こうと思っても、動けない。それでも、何とか。
「喰らうぞ、この悪夢——」