月影本人に訊いても、無駄な気がしてきた。本当のことを言われても、嘘をつかれても見破る能力が俺にはないからだ。ただの勘で物事を進めてはいけない。このことは俺と他の部員の心の中にしまっておいた方が良いだろう。
「では、久しぶりに今日の夢の主さんの話をしましょう~!」
部室に月影の声が響き渡る。全員、月影に何かをいう訳でもなく黙って次の言葉を待っている。
「今回の夢の主さんは、北中朝飛さんです! 星川さんなら絶対、知ってるはずです!」
「うん。だって……北中先輩は風紀委員長だもん。知らない訳ないよ」
月見野学園高校の風紀を一手に担う委員長の名は、確かに聞き覚えがある。やはりトワイライト・ゾーンは学校の有名人から狙っている様だ。
「北中先輩には、弟が二人いるそうなのですがどうも様子がおかしいみたいです。高校生にもなって一緒にお風呂に入っていたり、寝る時も同じベッドで寝ていたり。北中先輩はそれを“在るべき形”に正そうとするのですが、逆に自分がおかしいと家族から非難される……というのがおおよその内容みたいです」
中々に厄介そうな夢だ。俺たちが何をすればいいのかも、よくわからない。
「なあ月影、俺たちは何をしたらいいんだ?」
「私にもわかりません……」
困らせてしまった。そんなつもりは一切無かったのだが……。何となく申し訳ない気持ちになる。
「夢野、要するに家族の認知を正せば良いのだろう。やることそのものはシンプルだ。もっとも、それが一番大変なのだが」
暁人の一言で、段々と冷静になってきた。確かにこの夢のキー部分は、家族の認知だ。それを変えるには、どうすればいいのか。それが問題なだけなのである。
「家族の認知……今までの価値観を変えるって一晩じゃ無理よ。例え夢の中だとしても」
経験者は語る、なのかはわからないが望月が厳格な家庭で育ったのは知っている。
「説得とかも難しそうだね。先輩に我慢してもらうしかないのかな?」
「いや、手はある。この夢を見せている奴らの方を叩くんだ。そうだろ、月影」
あえて月影に話を振ることで、様子を見る。彼女は「そ、そうですね」と自分に話題が来るとは思っていなかったのだろう。少し慌てた反応を見せた。
「しかし、夢野。それは現実的に可能なのか? 奴らは巨大な組織だぞ。その中で夢を見せている存在だけを叩くのは……」
「今回の夢、引っかかるんだ。弟二人だけおかしいならまだしも、家族までそうだとなると奴らは案外近いところで介入している可能性が高い。それか、家族に化けているとか」
「なるほど。副部長は一度潜入して体感したいのね。奴らが介入しているかどうか、確かめたいってことね」
望月の言動に頷き、「そういうことだ」と口を開く。
「夢野……。そこまで言うのなら協力しよう」
「私も協力するわ。星川さんは?」
「勿論するよ! 奴らを叩けるチャンスでしょ?」
「私も、外からサポートしていますので!」
途端に微妙な空気が場を支配した。皆、月影に思うところがあるのだろう。月影本人もそれを察したのか「……すみません、出しゃばった真似を……」ともごもご言っている。
「まあともかく、深夜零時にいつもの場所に集合で! 一旦解散にするか」
月影が言わない代わりに、俺が解散を指示した。