目が覚めたら、ベッドに寝かされていた。まずは起き上がる。問題なく動ける様だ。ここは何処なのだろう。辺りを見渡すと、人影が見えた。警戒しながら近づくと、それは浅野先生だった。
「先生……?」
「はい、小生は浅野環希ですけど。……実は、夢野くんに言わなければならないことがありまして」
「な、何ですか」
いつになくキリリとした表情を浮かべる先生。きっと、よっぽど凄いことを言うのだろう。俺は僅かながら心構えをした。
「小生、夢野くんたちが何をしているのか知っていました。夢の中に入って退治をするのは、現実ではありえない話ですが……小生も二次元と三次元の区別がつかないほど馬鹿ではありません。しかし、知ってしまったからにはお伝えした方がいいのかもしれません」
先生の態度が変だ。どこか違和感がある。だが、話は俺の思考を遮って進む。
「……清水時雨さん、っていらっしゃったでしょう」
「! 先生、そんなところまで知ってたんですか⁉」
清水時雨。俺たちの前に現れた、一番最初のトワイライト・ゾーンとしての敵。
「はい。あらかた調べました。生徒に危険があってはいけないので。そこで、小生は清水時雨さんの正体も理解してしまったのです」
俺たちの間に緊張が走った。先生が? 知っている? 清水時雨の正体を?
「……誰なんですか、清水時雨って」
まさか、俺たちの身近な人間だったりして——いや、そんな訳がない。そうであって、ほしくない。俺は先生の瞳を見る。黒目がちな目が、俺を捉えていた。
「……月影さんです。彼女が、清水時雨です」
そんな馬鹿な、というのが第一の感想だった。月影と清水時雨が同一人物? 脳内が混乱する。夢の中だから改変出来るのだろうが、月影は女性なのに清水時雨は男性だ。それに、語り口調や声も全く違う。混乱する俺をよそに、先生は続ける。
「そもそも、月影さんと清水時雨が同じ場にいたことはないはずです。それに今、彼女は失踪中。となると、トワイライト・ゾーンによって匿われている……。今回の一件は彼女の自作自演だと考えられませんか?」
強引な考え方だが、ありえなくはない。実際問題、月影は清水時雨と対面したことがないのだ。何故なら、彼女の役割は夢の外での援護だから。
「……先生はいつから、知っていたんですか」
先生は、一瞬黙り込んだ。そして、ゆっくり口を開く。
「……クリスマスの前くらいでしたかね」
その声はとても落ち着いていて、曲がりなりにもこの人先生だったなと思わされた。
「そういえば、ここは何処なんです? 俺たちしかいないみたいですけど」
「小生たちは、月影さんに嵌められたのです。ここは恐らく、トワイライト・ゾーンの施設でしょう。鍵がかかっていて、外には出られませんが」
先生は扉を蹴破ろうとしてみせたが、びくともしない。
「俺も力を貸します」
今度は二人がかりでドアを蹴る。しかし、それでも凹みの一つすら作れない。俺たちが非力なのか、扉が頑丈なのかわからなくなってきた。
「弱りますよ、本当に……。小生にも夢野くんにも、待っている人がいるのに……」
無関係の先生まで監禁するとは、いよいよ手段を選ばなくなってきたな。先生を待っている誰かはわからないが、俺にはメンバーが待っている。早く脱出しなくては。脱出できる場所がないか、改めて部屋を見渡す。天井にある排気口なら、無理すれば入ることが出来そうだ。
「先生、あそこに排気口があります。あそこから脱出しましょう」
「でも、高さ的に一人しか入れないのでは? 夢野くん、先に行ってて良いですよ。小生が夢野くんを肩車しますので、乗ってください」
先生はかがんだ。
「本当に良いんですか?」
「生徒を助けるのも、先生の役目なので。誰か来る前に早く乗ってください」
先生はきっと将来、もっといい教師になれるだろう。俺は遠慮せず先生に乗り、排気口へと潜り込んだ。排気口は案外広く、定期的に掃除されているのかあまり埃っぽくなかった。
さて、これからやることを整理しなくっちゃな。排気口内を這いながら、頭をフル回転させる。まずは月影を見つけて、事実の確認をしてメンバーと合流。これが最優先だ。先生は、一人でも何とかなりそうなので少し後回しにさせて貰おう。申し訳ないが。
外に光が見えた。このまま這っていけば脱出できそうだ。