学校の正門前で車から降ろされる。休日だからか、登校している生徒はほぼ居なかった。
「弱ったことになったな……」
月影が居ないと、夢に入った時のバイタルチェックが出来ない。それはつまり、命綱無しでバンジージャンプをするのに等しい。月影を奴らから奪い返すまで、俺たちの活動は現実世界に限定される。現実世界で奴らと戦って、果たして勝てるのだろうか。弱音を吐いてはいけないのかもしれないが、今回は見事に嵌められた。
「ウダウダしていても仕方がない。奪われたものは奪い返すまでだ」
「そうだな……」
そのやり方がわからないので、困っている訳だが。
「とりあえず今日は一度解散にしよう。皆疲れているだろうし、今すぐに案は浮かばないだろうから」
「そうね」「そうだな」「わかった」
こうして俺たちは別れた。
***
翌日。登校して教室に入っても、寝ている月影は居なかった。改めて、昨日の出来事は本当だったのだと痛感する。表面上何もない様に取り繕い、クラスメイトと会話をする。
「残念だったな、獏」
「何が?」
「月影ちゃんが休みで」
どうやら、クラス内であらぬ誤解が生まれつつある様だ。否定しておかなくては。
「いや、月影とそういう仲な訳じゃないからな……」
「だってよ、高尾! 良かったな!」
高尾は「当たり前だろ、月影は俺の彼女候補なんだからな」とそっけない態度だった。後ろでは成瀬が苦笑している。ここの友情は少なからず修復されたみたいだ。
「はーい、席に着いてください。朝のHR始めますよー」
浅野先生が来たので、この話題は打ち切りになった。正直助かった。命拾いした気分だ。
「えー、皆さんに報告があります。月影さんなのですが、入院すると保護者の方から連絡がありました。皆さん、月影さんの病気が良くなる様に祈っていてくださいね」
頭が混乱する。月影の保護者、というのは両親のことか。トワイライト・ゾーンの脅威は本当にすぐそこまで迫っているのだと実感する。月影の両親を脅し、虚偽の連絡を入れさせたのだと推察した。恐らくこの読みは当たりで、だからこそ悪質なのだ。何も関係ない一般人を巻き込むなんて、許せない。
「——ってことが今朝あったんだ」
時間はとんで昼休み。俺たちは月影の居ない部室に集まっていた。
「こちらからの手出しを本格的に避け始めたな」
暁人が言う。早く戻ってきてほしい、その思いが先行してしまう。
「でも、このままじゃ戻ってこないよね? どうしよう……」
「僕に考えがある。夢野を囮にして、相手を引きずり出すんだ。奴らは強い能力を持つ人間から潰しにかかっている。だとすれば、次は夢ごと喰える夢野だろう。だから、夢野を囮にする。夢野はどうだ、出来そうか?」
「あ、あぁ……でもどうしたらいいんだ?」
確かに、暁人の言うことはもっともだ。俺自身、次に狙われえるのは俺だと思っていたし。この囮作戦、案外イケるかもしれない。
「これは僕が掴んだ情報なのだが……校内にトワイライト・ゾーンの関係者が居る」
「!!!」
薄々そんな気はしていたが、本当に居たとは。続きを促す。
「まだ誰だか特定は出来ていないがな……。そいつに、夢野を交換条件として差し出す。夢野は後から必ず助けに行くから、少しの間辛抱して貰うことになるが……大丈夫か?」
「月影がいれば、夢の中で奴らと戦えるだろ? 俺なら大丈夫だ」
それにしても、誰がトワイライト・ゾーンの関係者なのか見当もつかない。この学校の規模が大きすぎるせいだろうが。
「じゃあ、まずは相手側の人間を探すところからね」
「そうなるな。情報を掴んだら、グループのメッセージに送っておいてくれ」
何だか、暁人がリーダーみたいだ。それはそれで良いのだが。
「わかった」
しかし、これは骨が折れそうだ。一般人にトワイライト・ゾーンの話をしても、通じる訳がないどころかおかしな奴だと思われる。必然的に情報収集の手段が限られてくる。昼休みを終える鐘がちょうど鳴ったので、俺たちも解散となった。