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第113話

  学校の正門前で車から降ろされる。休日だからか、登校している生徒はほぼ居なかった。

「弱ったことになったな……」

 月影が居ないと、夢に入った時のバイタルチェックが出来ない。それはつまり、命綱無しでバンジージャンプをするのに等しい。月影を奴らから奪い返すまで、俺たちの活動は現実世界に限定される。現実世界で奴らと戦って、果たして勝てるのだろうか。弱音を吐いてはいけないのかもしれないが、今回は見事に嵌められた。

「ウダウダしていても仕方がない。奪われたものは奪い返すまでだ」

「そうだな……」

 そのやり方がわからないので、困っている訳だが。

「とりあえず今日は一度解散にしよう。皆疲れているだろうし、今すぐに案は浮かばないだろうから」

「そうね」「そうだな」「わかった」

こうして俺たちは別れた。


***


翌日。登校して教室に入っても、寝ている月影は居なかった。改めて、昨日の出来事は本当だったのだと痛感する。表面上何もない様に取り繕い、クラスメイトと会話をする。

「残念だったな、獏」

「何が?」

「月影ちゃんが休みで」

 どうやら、クラス内であらぬ誤解が生まれつつある様だ。否定しておかなくては。

「いや、月影とそういう仲な訳じゃないからな……」

「だってよ、高尾! 良かったな!」

 高尾は「当たり前だろ、月影は俺の彼女候補なんだからな」とそっけない態度だった。後ろでは成瀬が苦笑している。ここの友情は少なからず修復されたみたいだ。

「はーい、席に着いてください。朝のHR始めますよー」

 浅野先生が来たので、この話題は打ち切りになった。正直助かった。命拾いした気分だ。

「えー、皆さんに報告があります。月影さんなのですが、入院すると保護者の方から連絡がありました。皆さん、月影さんの病気が良くなる様に祈っていてくださいね」

 頭が混乱する。月影の保護者、というのは両親のことか。トワイライト・ゾーンの脅威は本当にすぐそこまで迫っているのだと実感する。月影の両親を脅し、虚偽の連絡を入れさせたのだと推察した。恐らくこの読みは当たりで、だからこそ悪質なのだ。何も関係ない一般人を巻き込むなんて、許せない。


「——ってことが今朝あったんだ」

 時間はとんで昼休み。俺たちは月影の居ない部室に集まっていた。

「こちらからの手出しを本格的に避け始めたな」

 暁人が言う。早く戻ってきてほしい、その思いが先行してしまう。

「でも、このままじゃ戻ってこないよね? どうしよう……」

「僕に考えがある。夢野を囮にして、相手を引きずり出すんだ。奴らは強い能力を持つ人間から潰しにかかっている。だとすれば、次は夢ごと喰える夢野だろう。だから、夢野を囮にする。夢野はどうだ、出来そうか?」

「あ、あぁ……でもどうしたらいいんだ?」

 確かに、暁人の言うことはもっともだ。俺自身、次に狙われえるのは俺だと思っていたし。この囮作戦、案外イケるかもしれない。

「これは僕が掴んだ情報なのだが……校内にトワイライト・ゾーンの関係者が居る」

「!!!」

 薄々そんな気はしていたが、本当に居たとは。続きを促す。

「まだ誰だか特定は出来ていないがな……。そいつに、夢野を交換条件として差し出す。夢野は後から必ず助けに行くから、少しの間辛抱して貰うことになるが……大丈夫か?」

「月影がいれば、夢の中で奴らと戦えるだろ? 俺なら大丈夫だ」

 それにしても、誰がトワイライト・ゾーンの関係者なのか見当もつかない。この学校の規模が大きすぎるせいだろうが。

「じゃあ、まずは相手側の人間を探すところからね」

「そうなるな。情報を掴んだら、グループのメッセージに送っておいてくれ」

 何だか、暁人がリーダーみたいだ。それはそれで良いのだが。

「わかった」

 しかし、これは骨が折れそうだ。一般人にトワイライト・ゾーンの話をしても、通じる訳がないどころかおかしな奴だと思われる。必然的に情報収集の手段が限られてくる。昼休みを終える鐘がちょうど鳴ったので、俺たちも解散となった。



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