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第111話

 今日は、咲夜と遊園地に来ている。咲夜は普段、パンツスタイルのことが多いのだが、今日はワンピース姿だった。

「珍しいな、ワンピースなの」

「……獏に可愛いって思われたくて」

 不意の一言に、動揺したのは俺の方だ。

「なんてね」

 咲夜も顔が赤くなっている。「なんてね」は照れ隠しのつもりだったのだろうか。そんなところも可愛いなと思いながら、アトラクションの待機列に並ぶ。よくカップルで遊園地に行くと別れるというジンクスがあるが、俺たちの周りはイチャイチャしている人たちしか居なかった。まぁジンクスだし、大半の人は信じていないのだろう。俺も信じていないし。

「混んでるね」

「まあ、人気のアトラクションだからな。でも待ってる時間も咲夜となら楽しいけど?」

 言ってから後悔した。何で俺はこう、恥ずかしいことを言ってしまうのだろうか。

「そう? 嬉しい!」

 咲夜の方はというと、大して気にしていない様だった。鈍感で助かった……。

 アトラクションの待機列は、すんなり進んだ。あっという間に乗る順番になったので、アトラクションに乗り込む。

「では、三名様出発しまーす」

 ……三名? 俺と咲夜の二人のはずなのだが。クルーの言い間違いだろうか。後ろを見ると、そこには見たことがある顔が乗っていた。

「お久しぶりです、夢野さん、星川さん」

東川颯ひがしかわはやて……!」

 望月を夢の世界に閉じ込めた張本人。今ここで三人なのは、非常にマズい気がする。俺たちは夢の中でしか、能力を使えないのだから。

「まあまあ。僕だって今すぐ何かしようというっ訳じゃないですよ? まずは話を聞いてから——」

「聞く話なんかねーよ。ガキは早く帰りな」

「僕のこと子ども扱いしましたね!? まあ、いいです。今から出す条件は、あなたの今後の活動に有利になるかもしれませんよ?」

 もう嫌な予感しかしない。

「夢に現実の物体を持ち込める能力、とても興味深いです。さしあたっては、組織の施設に招待して色々実験しようかと。勿論、ただでとは言いません。招くのは全員です。というか、貴方たち以外はもう捕えているので、選択権はないかもしれないですね」

 東川は、大真面目な顔で交渉してきた。子どもながら、頭脳は大人——その言葉が似合うかもしれない。

「だとしても答えはノーだ。咲夜を危険に晒すことは出来ない」

「私なら大丈夫だよ、それにこれって絶好のチャンスじゃん。乗らない手はないよ」

 咲夜は一度決めると曲げない、頑固なところがある。これは俺が折れるしかなさそうだ。それに、三人も人質をとられているのだ。これでは俺が非情な人間みたいになってしまう。

「……わかった。でもな東川、咲夜に変なことしたら鳩尾殴るじゃ済まないからな」

「わかってますよ」

 アトラクションを降りると、東川は「こっちです」と俺たちを先導した。聞けば、施設は点在しているのだという。今回は近くにあるのが東京の施設なので、そこに連れていかれる様だ。

 車に乗せられ、目隠しをされる。流石に施設の詳細な位置までは教えてくれないみたいだ。

「着きましたよ」

目隠しをとられると、そこには巨大なドーム状の施設があった。

「副部長、星川さん。心配してたわ。でも、逃げきれなかったのね」

「同感だ」

「それにしても、大丈夫でしょうか……こんな形でトワイライト・ゾーンに近づけるとは思いませんでしたが……」

 全員の無事を確認し終わったところで、東川から声がかかった。

「身体検査をするので、服を脱いでくれますか? 勿論女性陣は別の場所でやるので」

 ここは言うことを聞いた方が得策だろう。エントランスらしき場所で、俺と暁人は服を脱ぐ。外で服を脱いだら、まだまだ寒いし風邪の一つでも引きそうだ。俺だって男だから、咲夜の裸が見たいとか考えない訳ではないが……今はそれどころではない。

 身体検査が終わるとローブを着せられ、咲夜たちと再会できた。向こうもローブ姿だったので、チラチラと胸が見える。あまりそこに視線を送らないようにしながら、東川の説明を待つ。

「では、星川さんには、今からあの機械に入って貰います。他の皆さんは、どうぞコーヒーでも飲んでご歓談を」

「……必ずみんなを無事に脱出させるからね!」

 咲夜は、機械の方へ歩いて行った。もう俺たちも覚悟を決めるしかない。機械は洗濯機の様なドラム式のもので、扉が閉まる様になっている。不安だが、見守るしかない。


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