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第110話

 結局、橘弥琴からも大した話は聞けなかったことを部員に伝えた。露骨にガッカリする月影をよそに、望月と暁人は「やっぱりね」という顔をしている。兄弟仲は良さそうだったのに、情報を持っていないのは仕事が忙しいからだろうか。

「どうする? 八方塞がりだぞ」

 暁人が言う。確かに暁人の言う通りだ。これ以上俺たちに出来ることはない。

「じゃあ……ダメ元でチャレンジしてみますか? 悪夢退治」

 結局そういうことになるのだろう。息を吐きだし、

「一度やってみるか。仮にダメだったとしたら、また一から情報集め直しだけどな」

「では、そういうことで! 夜にまた会いましょう!」

 月影の一言で、その場は解散になった。


***


 深夜零時、以前よりは寒さが和らいだ気がする。とはいっても、まだコートが必要な程度には寒い。早く春にならねぇかな……。

 いつものように点呼をとられ、目を閉じる。今回の舞台は学校なので、すぐ見つけることが出来た。

「橘は絶対屋上にいる! いつもそうだからだ」

 俺たちは屋上への階段を駆け上る。そこには、舎弟に蹴られている橘の姿があった。

「橘、大丈夫か!?」

 橘は蹲っていて、何も話さない。

「ちょっと、ごめんね」

 咲夜は催涙スプレーを噴射した。舎弟たちは攻撃に油断していたようで、効果は抜群だった。

「橘くん、大丈夫?」

 望月が手を差し伸べるが、それは振り払われた。

「どうして君たちがここにいるのかわからないけど……僕は人に頼らないよ。……でも、ありがとう」

 橘の心境に変化があったのか。それはわからないが、そろそろ頃合だろう。俺は頭上に大きな口を出現させ、いつもの台詞を叫ぶ。

「喰らうぞ、この悪夢——」


 目が覚めたら、いつもの景色だった。おじさんがホットミルクを用意してくれていること以外は。

「おじさん、何でホットミルクを急に作ってるんだ? 今までそんなことなかっただろ」

「休息も必要だろうと思ってな。獏の分もあるぞ」

「……ありがとう」

 差し出されたマグカップを受け取り、一口飲む。味はシンプルだが、それがかえって美味しい。後味も残らず、グイグイ飲める。

「美味いな、これ」

「牛乳を変えてみたんだ。口に合ったなら何より」

 ホットミルクを飲んだことで、一気に眠気が襲ってきた。

「じゃあ、今日はこの辺で失礼するよ。ありがとな、おじさん」

 おじさんは「またな」と手を振って送りだしてくれた。


***


 翌日の朝。咲夜は何だか眠そうだ。

「珍しいな、そんな眠そうにしてるの」

「最近疲れてるのかも……」

 確かに、最近はあまり休みが取れていない。

「じゃあ、今度ぱーっと遊びに行くか」

「本当!? 約束だよ!」

 咲夜の瞳が輝きを取り戻した。単純な性格が羨ましい。


 橘の話は、退治の一件以降聞かない。だが、それでいいのだろう。俺たちは暗躍するのがお似合いだ。

 さて、今日も頑張るか。



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