おじさんは優しく出迎えてくれた。
「皆、文化祭は楽しかったか?」
人数分のコーヒーを淹れながら、おじさんは問うてきた。
「ああ、なんだかんだ時間があっという間だったよ」
皆頷きながら、椅子に座る。こんな時間にコーヒーを飲んだら、夜中に眠れなくなったりしないだろうか。まあ、今晩くらいはそうなっても文化祭のせいだと思えるだろう。
「それは良かった。ところで……いや、何でもない」
何かを言いかけてやめたおじさん。任務のことだろうか。だとしたら、俺たちに気を遣ってくれたのだろう。今日は文化祭という、学生の間にしか味わえない特別な日だから。
「今日はまっすぐ帰るんだぞ」
「いつもまっすぐ帰ってるって」
軽く文化祭での出来事を話して、帰ることにした。外に出ると、学校の方角はまだ明るい。祭りが終わっていないことを知らしめている様だった。
「んじゃ、振替休日の後にまた会おう」
「ばいばい!」「さようなら~」「またな」「ええ、また」
俺たちは解散し、帰路についた。といっても、咲夜とは家の方角が同じなので途中まで一緒なのだが。
「文化祭、楽しかったね!」
「そうだな……」
大量の景品が余りまくったので、俺らで山分けにしたのもいつか良い思い出になるのだろうか。今はまだ、想像できない。咲夜はポニーテールを解くと、「ねえ」と声をかけてきた。
「何だ?」
「来年は、二人で……いや、なんでもない」
「思わせぶりな言い方、途中でやめんならすんなよな」
「ごめん……」
そうは言うものの、大して反省してなさそうだ。する必要もないけど。
「私、ここだから。またね、獏」
「ああ、またな」
咲夜が家に入っていくのを見届けてから、また歩き出す。とりあえず、余った景品をどうするかが先決だ。