部室に戻ると、浅野先生がいた。
「やってみて、良かったですか? 出し物」
「まあ、はい。知り合いにも会えましたし」
訊かれると、決して悪くない文化祭だった。夢の主の現在も垣間見えたし。
「では、後夜祭には参加するのですか?」
「うーん、それはまだ考え中です」
後夜祭に参加すれば、佐久間先輩の弟も観られるのだろうが。
「小生はどちらでも良いですけど……学生時代の経験って貴重ですからね」
先生はそう言い残して、去っていった。断言できるが、今は文化祭の奇妙なテンションに取りつかれている。
「行ってみるか」
「夢野がそう言うなら」「私も副部長が言うなら」「獏が言うなら」「楽しそうです! 私も行きます」
俺たちだって、後夜祭に参加する権利はある。初めてだから、どんなものなのかという興味もある。体育館へ向かうと、既に沢山の人が吹奏楽部の奏でる音色に魅了されていた。勿論指揮者は梓希先輩だ。その表情は晴れ晴れとしている。もうあの時の面影はどこにもない。これなら、心配もいらないだろう。
「ねえ、校庭行ってみようよ!」
咲夜は無意識に俺の手を取って駆けだした。これも、後夜祭の熱気のせいだろうか。きっと、そうだ。
校庭では、赤いメッシュを髪に入れた男子生徒が叫ぶように歌っていた。吹奏楽部とは打って変わって、激しい音楽がその場を支配していた。
「ボーカルは俺!! 佐久間翔でしたー!!」
佐久間先輩の双子の弟の片割れは、ボーカルだった。ツリ目の先輩に対し、こちらはタレ目だ。身長はこちらの方が数センチ高そうだが。しかし、兄弟なだけあってよく似ている。目指す道は恐らく、違うんだろうけど。
「ちょうど終わったところみたいだな、次は演劇部か」
「望月、大丈夫か? 何なら会場から出るけど」
望月の心境を考えると、ここに居るのは得策ではないだろう。
「そうね……ごめんなさい、皆」
俺たちは学校を後にし、おじさんのところに向かった。