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第64話

 放課後になった。全員揃った部室で、一番に話し始めたのは月影だった。

「美麻さんから聞いた話ですが、毛利先輩は桃先輩のことを待たずに帰っているみたいです。以前なら待ってくれていたそうなのですが……」

「私たちも、同じ話を聞いたよ。毛利先輩の方から、意図的に桃先輩を避けているみたいだ、とも」

咲夜が言う。桃先輩は、毛利先輩のことを好きである。それは間違いない事実としていいだろう。しかし、逆は違うかもしれない。それが、俺たちの頭を悩ませる。

「望月に連絡しよう。あいつ、毛利先輩のこと張るって言ってたよな」

 俺は、望月に電話した。数コール後、彼女は「どうしたの?」と電話に出た。

「毛利先輩、桃先輩のことを避けているみたいなんだ」

「ああ、それは納得だわ。彼、他の女子生徒と一緒に雑貨屋さんに入っていくのが見えたもの」

 浮気確定。何処からが浮気なのかは人によって変わるだろうが、高校生の身分からすれば他の異性と恋人に知られることなく歩いているのは浮気だ。

「……雑貨屋、かぁ。ねえ、桃先輩ってもしかしてそろそろ誕生日なんじゃないのかな? 毛利先輩はそれを知ってて、あえて桃先輩に何も言わず行動しているとしたら……」

 確かに、それなら辻褄が合う。

「でも本当に誕生日かなんて、わからないしな……」

「訊けば教えてくれるだろう。それくらいなら、月影を後楽園美麻の元へ向かわせれば済む話だ」

 月影は、自分の名が呼ばれたからか立ち上がり

「剣道場、行ってきます!」

 と、そのまま部室から出て行った。それだけ今回の件には入れ込んでいるのだろう。

 やることが無くなった俺たちは、とりあえずデータを見返す。誕生日の記載はない。あるのは、悪夢の内容と容姿についての説明だけ。性格の記載すらないのは、有名人だからわかるだろう、という甘えだろうか。それとも、氷川さんには掴めない情報なのだろうか。


 しばらくすると、息も絶え絶えの状態で月影が帰ってきた。

「星川さんや夜見くんの言う通りです。桃先輩の誕生日は、明後日でした」

 だとすると、一つ疑問がある。

「じゃあ、何で妹たちに欲しいものとか聞かないんだ?」

「妹経由でバレるのが怖かったんじゃないでしょうか。だから、桃先輩とは関係のない女子生徒を代わりに連れて行って、プレゼントを選んでいるとか」

 いかにもありそうだ。それを桃先輩が目撃して疑心暗鬼になっているというなら、明後日には誤解が解け夢もなくなりそうだが。

「……これ、俺たちが出しゃばる仕事か?」

「その判断は任せる。伊達の時みたいに、見守るのも僕たちの仕事だと思うがな」

 暁人のその一言で決心がついた。

「よし、明後日まで様子を見よう。それでも悪夢を見るみたいなら、その時介入しよう」

「そうだね、それが良いと思うな」

「わかった」

 望月にもその旨をメッセージで伝えると、『わかったわ』と短く返事があった。


***


 あれから三日。美麻は月影といつのまにか親しくなったらしく、「まくらさん」と呼ぶようになっていた。

「姉さん、寝言言わなくなったんですよ。どんな魔法を使ったんですか?」

「いえ、私たちは何もしてません。桃先輩が自分で解決しただけです」

「そうなんですね」

 桃先輩は、自力で悪夢から脱出できたらしい。その精神力は、流石と言わざるを得ない。直接関わることはなかったが、たまにはこんな終わり方も良いだろう。奴らも介入していた訳ではなさそうだし。

 さて、次の被害者を助けに行こう。この件はこれで一件落着だ。


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