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第62話

 深夜零時、月谷ネットカフェ。点呼を終え、目を閉じ月影についていく。その先にあったのは、剣道場。学校のものと造りは同じ様で、見覚えのある風景だった。

 桃先輩はと言うと、敵と対峙していた。

「つまり、私が勝てば亜樹は諦めてくれるってこと?」

 亜樹、というのは毛利先輩の名前だ。どうやらこの勝負は、毛利先輩を巡る戦いらしい。

「ええ。綺麗さっぱり諦めるわ。さぁ、刀をとって」

 敵の方に見覚えはない。焦げ茶色の髪を、一つ縛りにしている。目は切れ長で、相手に威圧感を与えている。服が制服であることを考えると、学校の生徒なのだろうか。しかし、それ以外にこれといった特徴はない。桃先輩はというと、長い黒髪をポニーテールにして制服を着ている。目はぱっちりしており、相手と対極的だ。

 俺は望月にアイコンタクトをとった。まだ戦いが始まっていないかつ、二人に気がつかれていない今がチャンスだろう。望月は化粧箱を具現化させ、光を纏うと毛利先輩に変身した。色素が薄いのか、ややオレンジがかった短髪。そして、ほんのり赤いツリ目。

「やめろ、俺は戦いなんて望んでいない。俺にとっての一番は桃だ、お前とは付き合えない」

 いきなりの本人登場に、二人とも開いた口が塞がらない様だった。

「亜樹、あんた何でここに」

「亜樹さん、これは決闘なのです。邪魔はしないでください」

 動揺した二人は———桃先輩はそもそもまだ手にとっていなかったが———刀を置いた。

「デコレーター!」

 その間に、暁人は刀を奪い取り頑丈な箱に閉じ込める。二人は何が起こったのかわからないといった様子で、ただ毛利先輩に変身した望月を見つめている。

「俺が好きなのは、桃だけだ。お前じゃない。今後一切、桃に手出ししないと誓えるか?」

 敵側も、毛利先輩には弱いらしい。

「はい……」

 と、意気消沈した風に誓いを立てた。途端、夢の世界が崩落し始める。夢の主の覚醒が近そうだ。

「食らうぞ、この悪夢———!!」

 俺は口を具現化させ、剣道場ごと呑み込んだ。


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