放課後、咲夜と望月の報告を待つ。俺が部室に来てから五分後くらいに、二人は現れた。
「どうだった?」
「全然ダメ。佐久間先輩の時と同じ様に、何も教えてくれなかった」
まあ、普通に考えれば名前も知らない後輩に悪夢の話なんてしないだろう。俺でもしない。
「じゃあ、アプローチを変えるのはどうだ? 例えば、後楽園美麻から話を聞くとか」
確かに、その方が情報収集出来そうだ。先輩も、身内になら何かぼやいているかもしれない。
「じゃあ、他の姉妹から話を聞いてみようか」
「そうしましょう。星川さんと私は二年生の双子の方に話を聞いてみるわ。部長たちには、美麻さんを担当して貰っていいかしら」
「了解で~す!」
月影が、俺たちが話を聞くのは後楽園美麻。後楽園姉妹なら一番大人しそうな女子なので、少し安心した。同級生なのも、話しかけやすい要因だ。
「じゃあ、早速剣道場に行ってみよう!」
俺たちは、剣道場まで走った。部室からは結構距離があり、途中でバテそうになった。グラウンドで運動している生徒たちが、怪訝な目で俺たちを見ている。しかし、そんなことより早く剣道場に行かなくては部活の時間が終わってしまう。俺たちは再び走った。
剣道場に着くと、異性のいい声が飛び交っていた。その中心に居るのは、間違いなく後楽園桃その人だ。だが、今の目的は彼女じゃない。彼女の妹だ。咲夜と望月は二年生の方へ足を運び、俺たちは美麻を探す。
美麻はすぐ見つかった。彼女は記録係をしていて、面をしていなかったからだ。
「あの、後楽園美麻さんですよね?」
月影はあくまでも優しい口調を崩さない。
「そうですけど……何か?」
相手が不審がっている。当たり前だ。見ず知らずの生徒にいきなり話しかけられたら、誰だって訝しむだろう。
「はじめまして、私は月影まくらと申します。あなたにお話があって、ここまで来ました」
「はあ……」
月影が名乗ると、少しは警戒心を解いたのか気のない声が漏れた。
「それで、訊きたいこととは?」
美麻はこちらを向いた。話を聞く気はある様だ。
「あなたのお姉さん……後楽園桃さんについてなのですが」
「姉さんのこと? 役に立てますかね……」
美麻の表情が曇る。桃とはあまり仲良くないのだろうか、そんな印象を受けた。
「最近、眠ってる最中にうなされたりしていませんか?」
「そういえば、最近は寝言が酷いかもです。この間、私が夜中に目が覚めた時、姉さんの部屋から大音量の寝言が聞こえてきたことがあって……」
重症だ。出来るだけ早く、問題を解決したい。
「他には何かないか」
「別に……ただ、剣を持つとき少しだけ手が震えている様に見えます」
やはりそれは、悪夢の影響なのだろう。それを悟られない様に、桃は気丈に振る舞っているのではないか。勘だけど、恐らく正しい。
「あの、姉さんのファンの方ですか?」
「ああいや、そういう訳ではないんだけど……」
言ってから気がついたが、これだと不審だ。しかし、美麻は気にする様子もなく「そうですか」と無関心そうに返した。
「では、私は記録係に戻りますので。それでは」
美麻は走り去っていった。有益な情報なのか微妙なものが手に入った。とりあえず、咲夜たちと合流しよう。向こうも話し終えたみたいだし。