翌日、咲夜と二人で学校に向かっていると「副部長、星川さん。おはよう」と後ろから声がした。この声は望月だな——そう思いながら振り返ると、髪の毛をバッサリと切った彼女の姿があった。
「え、どうしたの? イメチェン?」
先に食いついたのは咲夜の方だった。望月の髪型は、昨日まで腰まで伸びた艶やかな黒髪だった。今はと言うと、肩より上で切り揃えられている。もう少し具体的に言うなら、顎先と同じ程度の長さだ。何かを振りきれたのだろうか。そう思わせるほどのイメチェンだった。
「ええ、少し思うところがあって。学校に向かいながら話すわ」
俺らは、とりあえず歩を進めた。
「どうして髪を切ったんだ?」
望月は、前のままでも十分可愛かったのに。いや、可愛いというよりは美しいか。別に今の髪型が似合っていない訳ではない。今の望月は、キャリアウーマンとして仕事が出来そうな雰囲気を醸し出している。
「あの髪型は、両親に言われてそうしていただけだから。形だけでも、自由になりたくて」
「でも思い切ったね! これはこれで凄く似合ってるよ」
「皆のおかげよ。もっと自由に生きて良いって思えたから」
望月の表情は、晴れ晴れとしていた。今まで望月を繋ぎとめていた鎖から、解放されたのだろう。
学校に着き、一度俺たち三人は解散になった。あの望月を見たら、暁人や月影はどんな反応を見せるのだろう。楽しみが一つ増えた。
「あ、夢野くんじゃないですか。一緒に教室に行きませんか?」
人混みの中を歩いていると、浅野先生に声をかけられた。
「はい。浅野先生、そういえばミステリー研究会の方には顔出さないですよね。どうしてですか?」
その方が好都合ではあるのだが、少し疑問に思ったので訊いてみることにした。
「小生は小生で、忙しいもので……。近いうちに顔を出しますね」
申し訳なさそうに言う先生。
「いやいいですよ、無理しなくて」
「そう言ってくれると助かります」
教室に着くと、先生は覇気のない声で「HR始めますよー」と教壇に立った。それを合図に、皆自分の席に戻った。月影はというと、彼女自身がマスコットの様な扱いを受けているので周囲の連中だけ戻った様だ。月影は席を立たずとも、勝手に仲間が寄ってくるみたいだ。
今日の連絡事項を聞き流し、一限目の授業の準備をする。
今日も程よく、頑張ろう。