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第52話

 両親からは、いい子であれと言われ続けてきた。

演劇部の部員、ファンの皆からは完璧であることを求められた。

 辛かった。いつかはボロが出てしまうのではないかと思って。

 この教室には今、私が二人いる。今、こうして考えているのは従来の私。もう一人は、自分の思うがままに生きてきた私。見た目は同じでも、中身は異なる。

「……つまり貴女は、自由になりたいの?」

 頷くと、言葉が続いた。

「だから、あの少年の手を取るの? 生き方なんて人の手を借りなくとも、自分から変えていけるはずよ」

 彼女の言う通りだ。私にはその勇気がなかっただけで。人に、縋ってしまおうとしただけで。

「……その通りね。でも、私に出来るかしら」

「大丈夫、そう言う時の為の仲間でしょう。もっと周りを信じてみなさい」

 不安は帳消しになった。私に足りなかったのは、勇気と信じる心だ。私はまだ成長できる。

「……やってみるわ。私、外で自由になりたい!」

「なら、ここにはもう居なくていいわね。いってらっしゃい、もう一人の私」

「いってきます」

 直後、視界が暗転した。これは、夢から夢に移るときもこうなるのね。普段の任務で暗転は慣れっこだけれど。


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