両親からは、いい子であれと言われ続けてきた。
演劇部の部員、ファンの皆からは完璧であることを求められた。
辛かった。いつかはボロが出てしまうのではないかと思って。
この教室には今、私が二人いる。今、こうして考えているのは従来の私。もう一人は、自分の思うがままに生きてきた私。見た目は同じでも、中身は異なる。
「……つまり貴女は、自由になりたいの?」
頷くと、言葉が続いた。
「だから、あの少年の手を取るの? 生き方なんて人の手を借りなくとも、自分から変えていけるはずよ」
彼女の言う通りだ。私にはその勇気がなかっただけで。人に、縋ってしまおうとしただけで。
「……その通りね。でも、私に出来るかしら」
「大丈夫、そう言う時の為の仲間でしょう。もっと周りを信じてみなさい」
不安は帳消しになった。私に足りなかったのは、勇気と信じる心だ。私はまだ成長できる。
「……やってみるわ。私、外で自由になりたい!」
「なら、ここにはもう居なくていいわね。いってらっしゃい、もう一人の私」
「いってきます」
直後、視界が暗転した。これは、夢から夢に移るときもこうなるのね。普段の任務で暗転は慣れっこだけれど。