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第55話

放課後。俺と咲夜はショッピングモールに行った。俺たちの家の反対方向にあるこの場所は、放課後になると月見野学園高校の生徒で賑わう。と、言っても俺たちは部活で忙しいためほとんどここに来たことはない。

「ねえ獏、折角だしおやつ食べようよ。あの店、カップル割やってるんだって!」

 咲夜の視線の先には、女子が好きそうな色合いをしている看板の店がある。

「カップル割か……」

「ねえ、駄目かな?」

 そう言われると弱い。咲夜もわかって言っていることだろう。

「仕方ねーな……」

 手を繋いで入店すると、どうやら勝手にカップル割が適用された様だった。店内を見回してもカップルだらけで、結構な人気店らしい。メニューを見るとパフェばかりだったので、適当に期間限定のものを注文した。咲夜も同じものを注文しており、好みの系統が似ているなと思った。咲夜は多分、「カップル割」という言葉に惹かれただけでメニューにはあまり興味がないのだろう。

 しばらくすると、ホイップクリームが果物を覆い隠すくらいのっているパフェが運ばれてきた。美味そうだが、女子ならカロリーが気になるはずだ。咲夜は夢の世界である程度消費しているから、気にならないのかもしれないが。

「ねえ獏、あれやらない?」

 嫌な予感がした。咲夜の見ている先には、所謂「あーん」をしているカップル。

「流石に恥ずかしくないか……?」

「で、でも! こんなチャンス滅多にないし……」

 上目遣いで言われると弱い。恋人になってから、咲夜の要求をほぼ全て吞んでいる気がする。

「仕方ねーな、じゃあ今回だけ」

「やった!」

 咲夜は、自分のスプーンに器用に具材を乗せ、俺の口元に運んだ。それを味わおうと口を閉じると、今更緊張してきた。だってこれってつまり、間接でキスしてるよな……?

 幼い頃は全く気にならなかったのに。これが進化なのか、退化なのかはわからない。ただ、気恥ずかしさだけが残った。

「どう? 美味しい?」

 上目遣いのまま訊いてくる咲夜に

「美味しいも何も、注文したのは同じやつだろ」

とややぶっきらぼうに返してしまった。

「それもそうだね……」

 咲夜は、少ししょんぼりしているみたいだ。俺の態度が、あまりよくなかったのかもしれない。

「でもまぁ、美味かったよ」

「ほんと!? 良かった」

 咲夜の表情が明るくなった。昔から咲夜は単純だ。よく言えば純粋、になるのだろうか。だが、そんな咲夜が俺は好きなのだ。どうしようもなく。

「これ食べたら帰るか」

「そうだね。ここから家まで歩くと、結構時間かかるもんね」

 くだらない話をしながら食べ終わり、会計を済ませ店外に出る。同じ制服の人間が何人もいて、何とも言えない気持ちになった。気力がある人は横浜駅まで出るのかもしれないが、近所にこんなショッピングモールがあればそちらに流入するのも無理はない。横浜駅に出るためには、乗り換えも必要だし。


 帰り道、咲夜は多くを語らなかった。店で大体のことは話し終えたらしい。

「じゃあ、私ここだから。今日はありがとう、獏」

「おう。また明日な」

 俺は咲夜の背中を見送り、自分の家に帰った。


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