深夜零時、望月救出のために四人で集まった。一人欠けているというのはやはり寂しさと悲しさがあるが、これから救出するんだと心を入れ替える。
望月のいない点呼をとり、目を瞑る。月影に先導されるがままに進むと、
「学校……!?」
俺たちの通う月見野学園高校がそびえ立っていた。月影が「こっちです〜!」と中へ入っていく。それに続いて俺たちも中に入ると、本物の学校と変わらないくらい精細な再現度で、夢が存在している。
「望月がいるとしたらどこだ……?」
演劇部の部室とか、教室とか候補が多い。とりあえず一つ一つ見て回ることにしたが、事態は一刻を争う。走って演劇部の部室へ向かった。
「ここではない、か……」
部室に人影はなかった。となると、比較的近い俺たちの部室の可能性もある。一応見ておこう。
俺たちの部室のドアを開けても、やはり人の気配はない。だとしたら、残るは望月の教室くらいか。走り疲れてきたが、これも望月のため。息切れを起こしながらも教室に辿り着くと、人の気配があった。
「……アタリだな」
そこに居たのは望月と、純粋無垢な瞳をした少年だった。
「あーあ、気がつかれちゃいましたか」
少年がこちらに歩み寄ってくる。歩幅は小さく、小学校高学年くらいに見える。
「お前、何者だ?」
「お静かに。彼女は寝てますから。それに名前を聞く時は、自分から名乗るのがルールでしょう? ……と言いますが、僕はあなた方のことをあらかじめ調べておきました。名乗らなくても大丈夫ですよ。
僕の名前は東川颯。貴方は夢野獏さんと、そのお仲間さんですね」
望月を観察すると、確かに寝ている。今までになく綻んだ顔で。これが望月の本来の姿なのだろうか。
「……望月に何をした?」
「彼女とは、契約を交わそうと思っただけです。ただ、彼女が時間をくれというのであげたら案の定、見つかっちゃったんですけど」
「契約?」
「僕の口からは言えません。聞くなら彼女から聞いてください」
東川は、そう言うが早いか俺の鳩尾目がけて突進してきた。油断していた俺はそれを食らってしまい、倒れ込む。
「警戒してましたけど……この程度ですか?」
「まだまだ!」
今度は咲夜が少年に向かって攻撃する。武器は、細長い髪飾り。目潰しにでも利用するつもりなのだろう。それとヘアピン。こちらはダーツの様に使用するのだと思われる。
「小学生相手に酷いですよ!」
そう言いながらヘアピンを躱していく東川。夢の中に小学生として出現しているからって、同じ姿とは限らない。というか、こんな小学生いたら嫌だ。
「いっけー!」
咲夜は相手の懐に飛び込み、髪飾りを突き立てる。
「痛っ! しかも目が、目がっ……僕にこんなことして良いんですか!? 今の彼女の生殺与奪の権利は、僕が握ってるのに」
そう言われてしまうと、こちらとしては一度引き下がるしかない。
「お前、望月をどうするつもりなんだよ……!」
冷静になろうと思い、深呼吸をして訊ねる。
「そうですね……今の彼女は不自由で、見ていて可哀想じゃないですか。だから、彼女を自由にしようと思いまして」
「見ていて可哀想? 僕は、その様な目で見られている方がよほど可哀想だと思うがな」
暁人の言う通りだ。望月は、そんなことを望んでいる訳ではないだろうに。
「どうでしょうね? 僕は、彼女のことは高く評価してますよ」
やり取りをしている最中も、望月を観察する。ぴくりとも動かず、寝息を立てている。望月が自分のことをどう思っているか、俺には理解できないが。今ここで起きて欲しいのは本心だ。その願いも届かず、彼女は眠り続けている。