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第44話

 母親との帰り道で、唐突に「獏、夜遊びとかしてないでしょうね」と詰められた。

「いきなりどうしたんだよ」

「ここ半年くらい、夜中にガチャって音が聞こえるのよ。最初は気のせいかと思ったんだけど、ある時思い切って見てみたの。ドアの方角を。そしたら獏が出ていくところで、すぐ出て行っちゃったから、声をかける時間もなくて。あー、やっと言えたわ。すっきりした」

 夜遊びはしていない。むしろ、悪夢と対峙する側なのだから褒めて欲しいくらいだ。

「夜遊びなんかしてねーよ、ただ……心配かけてごめん」

「いいのよ、学生の間は遊んでこそみたいなところもあるし。ただ……何をしているのかは知る権利があると思うの」

 それはそうだ。自分の息子だしな。

「家に着いたら話す」

 何処に奴らが居るのかわからない屋外で話すのは、危険な気がした。

「わかったわ」

 母親も覚悟を決めたらしく、表情が引き締まる。

俺の家は、学校から徒歩圏内にある。なので、容易に辿りつけるのだ。

「ただいま」

 そう挨拶し家に入ると、一気に脱力感が襲ってきた。

「とりあえず、寝ときなさい。話は後で良いから」

 俺の状態が、思ったより悪くみられているらしい。言葉に甘えて、俺は自室のベッドに潜り込んだ。

 最近のトワイライト・ゾーンの動向について少し考えてみることにする。

 清水時雨が死んだ今、メンバー一人一人に刺客を差し向ける方向に変わったと見るのが正しいだろう。警戒するにこしたことはないので、チャットアプリに文章を打ち込んでおく。これをハッキングする能力を奴らが持っているかは不明なので、賭けみたいな部分もある。だが、今やらなければいつまでたってもやらないだろう。

『皆、聞いてくれ。俺は今日保健室で攻撃を受けた。トワイライト・ゾーンのやつだ。どうやら、奴らの標的が俺たちにも向き始めたみたいだ。各自、警戒して寝てくれ』

 既読のしるしと、了解の意のスタンプ。注意喚起はしたが、彼らがどうやって悪夢を見せているのかわからない以上根本的な解決は難しいだろう。中に知り合いが一人でも居たら、また変わってくるかもしれないのに。

“今連絡を取り合っているのはスパイとして潜入している氷川真奈だけだ。夢の情報も、彼女から貰っている”

おじさんの言葉が頭に浮かんだ。そうだ、おじさんから紹介して貰えば良いのだ。氷川真奈さんを。

まだクラクラが収まりきった訳ではないので、寝転びながらおじさんに電話をかける。数コール後に、おじさんの声が聞こえた。

「おじさん、前にトワイライト・ゾーンの中にスパイが居るって話してたよな」

「あ、あぁしたけど……彼女がどうかしたのか?」

 困惑が機械越しに伝わってくる。

「俺にも紹介してくれないか?」

しばらく沈黙。それを破ったのはおじさんだった。

「俺同伴でなら、まぁ良いだろう。だが、彼女は少し変わってるからな……」

 変わり者なら夢を食い始めてから嫌と言うほど見てきたので、もう気にならなくなってきた。

「わかった」

「日程はまた調整しよう。それでいいか?」

「構わない」

 そのまま電話は切れた。氷川真奈、どんな人物なのだろう。頭の調子が良くない時に考えても、冷静な答えが出る訳ではないのでやめた。部活の方にも欠席の旨を伝え、久々に一人になった。体調不良だからか、人が恋しい。

 咲夜だったら、看病してくれるのだろうか。普通にしてくれそうだ。料理には期待しない方が良いが。咲夜の料理は、意外と大胆なので味が濃すぎることが多々ある。咲夜のお母さんの料理は普通なのに……どうしてこうも違うのだろう。そういえば最近、咲夜の料理を食べていない。何かリクエストしてみるか。何が良いだろう。ぼんやりと考えていたからか、そこから先の意識はない。ただ、夢に奴らが現れなかったのは幸いだ。

「獏、夕飯部屋の前に置いておくから。食べられそうだったら食べて」

 母親の気遣いが染みる。部屋にお盆を持ちこみ、机でメニューを観察する。

 白米、みそ汁、魚の照り焼き。一般的なメニューで安心した。母親は時々奇怪な料理を作る。カレーに生クリームを入れたり、その上カスタードまで入れてしまう……そんな料理が多いのだ。もう慣れたが。

「いただきます」

 久しぶりに一人で夕飯を食べた。食事というのは、やはり話し相手が居ないと一気に味気なくなる。あっという間に食事を終え、お盆を部屋の外に出す。今日は休む日だと決めたので、とことん休ませて貰おう。母親の追及も面倒だし。明日になれば追及されるのは間違いないが、明日の俺が何とかしてくれるはずだ。


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