当然ながら、眠れなかった。あれだけの情報を一気に言われたら、飽和してしまう。
「獏、凄いクマ……眠れなかったの?」
「あぁ、まぁちょっとな……」
「おじさんと何かあった?」
流石、幼馴染をやっている間だけあって鋭い。
「いや、何も」
確実に怪しまれているが、咲夜はこれ以上追及してこなかった。
咲夜と校門でわかれ、教室に向かうときに声をかけられた。
「おはよ、昨日は話を聞いてくれてありがとう。おかげさまで、悪夢見なかったよ!」
「……それは良かったです」
周囲からの目線が突き刺さる。大方、「何で普通の奴がスーパーアルバイターと話してるんだ?」というものだろう。俺もその立場だったらそう思うはずだ。
「じゃあ、私はこれで。またね!」
校舎へと走っていく如月を見送る。この学校には有名人がこれでもか、というほど居るが如月はその中でも変人の部類に入るだろうな、などと考えていたらあっという間に教室へと辿りついていた。いつもの友人たちとくだらない話をしながら、先生が来るのを待つ。
まもなく先生は現れ、朝のHRが始まった。今日も一日、頑張ろう。
とは言ったものの一睡もできていないのだ。授業中に眠くなるのは仕方がない。月影は頑張って起きているみたいだが、俺はもう限界に近く意識を手放した。
「……くん、夢野くん」
俺を起こす声が聞こえたので、起きることにした。目の前には月影。
「夢野くん、寝すぎですよ。さ、一緒に部室に行きましょう~!」
「そうだな……」
立ち上がると、少しクラクラした。貧血だろうか。
「夢野くん?」
「大丈夫だ、行こう」
そのままの状態で歩き始めると、クラクラがどんどん悪化してきた。
「夢野くん、保健室行きますか?」
「そうだな、悪いけど今日は俺保健室に居るから。何かあったら来てくれ」
月影にそう伝言し、保健室を目指す。俺たちの教室からだったら、そんなに遠くない。保健室のドアを開けると、保健の先生である新海雪穂が居た。
「どうしたの? まずはそこにあるカードに病状書けるかな?」
柔らかな日差しのような眼差しで訊いてくる先生。「書けます」といい、病状をカードに書いていく。
「一応、熱計っておこうか。自分で出来る?」
「出来ます」
手渡された体温計を脇の下に挟み、一分ほど待つ。
「……うん、熱はないみたいだね。貧血と寝不足が同時に来ちゃったのかな。目の下のクマ凄いもんね。昼休みの間はここで休んで、無理そうだったら早退も考えよっか」
「はい……」
「そこのベッド、使っていいよ。隣に誰も居ないから、快適に眠れるはず」
先生は、奥のベッドを指しながら言う。
「ありがとうございます」
その言葉に甘え、俺はベッドに寝っ転がる。朝から授業中散々寝たのに、また睡魔に襲われた。