毎回思うが、深夜の高揚感って何なんだろう。妙に「何でもやれる」気持ちになっているのは、この時間帯だけだ。俺は、こういう気持ちは結構皆が持っているものだと思っている。
「は~い、揃ったので点呼いきますよ~!」
いつもの様に点呼をとられ、ネットカフェの椅子に腰かけて目を瞑る。真っ暗な視界に現れた月影に先導されながら、俺たちは悪夢に向かった。
段々と道が整備され、俺たちは街中に辿り着いた。ここは、横浜駅近郊のファミレスが入っているショッピングモールのすぐ近くだ。如月は、ここでバイトをしているのだろうか?
そう思いつつ、ファミレスの中を覗き込む。無人だ。いつもここは、それなりに賑わっているはずなのに。やはり閉店してしまったのだろう。如月は既に、閉店を伝えられているのだろうか? だとしたら、ここには来ない可能性もあるが……どうしたものか。俺が思索に耽っている間、四人とも無言だった。無言の圧力って怖い。
と、そこに誰かが通りかかった。私服姿だったからわかりづらいが、恐らく如月だろう。
「あのー、すみません」
声をかけてみると、彼女は「何かな?」と反応してくれた。うっすら黄土色がかった瞳で見られると、少し異世界を感じる。
「そこのファミレスなら閉店したよ。私も働いてたからびっくりしたけど、決まっちゃったことは仕方ないよね。じゃあ、次のバイトがあるから」
去っていこうとする如月を食え、という圧力を感じる。確かに今がチャンスだ。
「……食らうぞ、この悪夢」
今回は叫ばず、小さな声で言ってみた。あんまりキマらなかったので、やはり次からは叫ぼう。大きな口を出現させ、如月ごと呑み込む。直後、視界は暗転し元のネットカフェに戻された。
……あっさり行き過ぎてて怖い。トワイライト・ゾーンは何の目的で悪夢を退治させているんだ? まるで俺たちが悪夢を食っている最中に、もっと別の何かを引き起こそうとしているかのような———
「獏? どうしたの? 思いつめたような顔して」
「悪い、皆先に帰っててくれ。俺はおじさんと話があるから」
咲夜は「わかった」と言うと、皆と共にその場を後にした。
「悪いな、おじさん。でもこれは、サシで話したかったんだ。おじさんは、トワイライト・ゾーンのことを何処まで知ってる?」
「何処まで、とは」
緊迫した空気が流れ始めた。
「おじさん、毎回夢の主の情報をどうやって集めてきているんだ? それってやっぱり、トワイライト・ゾーンと関わりが無いと無理だよな」
おじさんは、俯いている。
「少し、昔話をするか。俺は、トワイライト・ゾーンに挑んで負けた。仲間も散り散りになって、今連絡を取り合っているのはスパイとして潜入している氷川真奈だけだ。夢の情報も、彼女から貰っている」
おじさんは、息を吸って吐き出しながら続けた。
「獏、お前の能力は本当は俺のものだったんだ。敗れた時は、お前はまだ五歳だったな。だから、こっそりキャンプに行ったときに能力を譲渡したんだ」
頭が混乱してきた。潜入? 能力の譲渡?
「そんなこと、本当にできるのか?」
「そこは賭けだった。だが、出来た。だから、正当な能力者としてもっと堂々と振る舞って大丈夫だぞ」
一から考えよう。まず、おじさんは元能力者だった。しかし、トワイライト・ゾーンに敗北し、能力を俺に託した。譲渡した、でもいい。その時のおじさんの仲間は一人を除いて、全員死亡かそれに近い状態にあると思われる。
「獏、このことは内緒にできるな?」
「おう……俺も呑み込めてないから話せねえ……」
しばしの沈黙。それを破ったのはおじさんだった。
「そろそろ帰る時間じゃないのか?」
「あ、そうだな! また来るからな!」
少し強引にネットカフェを後にした。