朝、俺の家の前に伊達が居た。何か悪いことでもしたか? と内心不安になったが、うじうじしていても仕方がないので声をかけた。
「おはよ。何で家の場所がわかったんだ?」
「まぁちょっと……な。聞いたんだよ、お前の周りの奴に。ところでさ、アイツ今彼女とか居るのか?」
いきなり何の話をしているのだろうか、こいつは。アイツって暁人のことだよな。面倒なことになりそうだ。無視して咲夜の家の方角へ向かう。
「おい、待てって」
追いかけてくる伊達を無視し、咲夜と合流する。
「おはよ、獏。……と、伊達さん」
「何で風紀委員ちゃんと歩いてんだよ、お前らどういう関係?」
俺と咲夜の間には取り決めがある。それは、恋人同士であることを公言しないことだ。だから今回も、嘘ではない説明をしておく。
「幼馴染」
「そうなのか……アタシにはもっと深い仲に見えたけど。ま、いいか」
そう呟き、伊達は去っていった。ミニスカで全力疾走したら、中が見えそうなものだが。あまり羞恥心というものがないのだろうか。意外と見せたがりなのか? そんなことは一旦頭の隅に追いやる。校門の前で咲夜と別れると、今度はもっと珍しい人に声をかけられた。
「おはようございます」
「あ、浅野先生! おはようございます」
俺と月影の担任である、浅野環希だ。
「夢野くんと会うとは思いませんでした。折角ですから、教室まで一緒に行きませんか?」
「良いですけど……」
話すことが一つもない。俺は彼の担当している現代文が得意な訳ではないし、そもそも教師と日常的に話さない。先生も、別に話し上手という訳ではないし。
「浅野先生、この時間に出勤してるんですか?」
「いえ、今日は晃希……小生の弟と朝から喧嘩をしまして家を出る時間が遅れたんです」
驚いた。喧嘩出来るくらいの強さは持ち合わせているのか。いつも頼りない姿ばかり見ているせいで、想像がつかない。
教室に入ると、月影が机に突っ伏していた。元来ロングスリーパーらしい彼女は、朝のHRが終わるまでずっとこのままだ。声をかけても起きないので、そっとしておく。
「皆さん。HRの時間ですよ~。席についてください!」
今日が、本格的に始まる。一日頑張ろう。