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第36話

 月影の先導がなくても行けるくらいには、俺たちも成長してきている。

「伊達、入るぞー」

 ガチャリとドアを開けると、すぐさま「デコレーター!」という声が聞こえた。暗かった室内が一瞬で宮殿の一室の様になっていく。すかさず咲夜が、持ってきていた花瓶だの鏡だので部屋を飾りつけていく。伊達はというと、口を開けてただ見ているだけだ。言葉が出なかったのかもしれない。そして、スコティッシュフォールドは変化することなく主人である伊達に甘えている。

「あの……ええっと……どうしてこんなことを?」

 ようやく言葉が出たと思ったら、疑問符。誰でも疑問に思うだろうから、当然なのだが。

「えっとな……少し長くなるんだが。お前、学校で『女番長』って呼ばれて友達出来ないの気にしてるんだろ。だから、暁人がデートに誘ってくれたの、嬉しかっただろ?」

「……」

 俺は続ける。

「お前の飼い猫は、友達が出来ず塞ぎこむお前のことを心配してた。だから変化して、お前をこの部屋から追い出そうとしたんだ」

「リンちゃん……アタシのために……」

 伊達の瞳から涙がこぼれた。大粒の涙が。その場に崩れ落ちる伊達を、リンは隣で見ている。

「この夢も食べちゃうの?」

 咲夜の問いかけに、俺は答える。

「いや。この夢は悪意もないし、何より二人の友情の証だろ。そのままにしておこう」

「僕もそれに賛成だ。……偵察役も、たまには悪くない」

 暁人にはもっと文句を言われると覚悟していたから、驚いた。俺たちは、二人を邪魔しない様にそっと夢から抜け出した。


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