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第35話

 昼休み、珍しく暁人は部室に来なかった。昼休み中にも伊達を口説き落としているのかと考えると、責任感の塊だなと思えてくる。

 そんなことを思っている間に、グループメッセージに『伊達と来週映画を観に行くことになった。尾行頼む』というメッセージが入った。思ったより上手く出来ているみたいだ。

これはチャンスだ。俺たちは顔を見合わせ頷く。四人だと流石にバレるだろうか。いや、伊達は鈍感そうだから平気だろう。

「じゃあ、一度解散にしましょうか~! 夜見くんも忙しいみたいですし」

 月影の一言で、解散になった。


***


 尾行の当日。俺たちは人の多い桜木町駅の前で待ち合わせている二人を発見した。おいて行かれないようについて行くと、今流行りのアニメ映画の券を購入している伊達が目に入った。しかし、それ以上に目に入ったのはトコトコ歩いているスコティッシュフォールドだ。猫が何故映画館に。というか、あれは伊達の愛猫じゃなかったか。情報量が多すぎて処理できないうちに、「入っちゃいますよ、二人」という月影の声で自分を取り戻せた。

 俺は見たままを皆に話した。誰も信じてくれなかったが。

「獏、疲れてるんだよ。ゆっくり休んで」

「副部長、尾行なら私たちがしておくから……」

「違うって! 疲れてない、本当に居たんだ」

「夢野くん、幻覚をてしまったんですね……」

 俺が圧倒的劣勢だったので、大人しく帰ることにした。間違いなく見たのに、不本意だ。


 それから、暁人は何回か伊達とデートをしていた。淡々とした報告なので、楽しいという感情はないのだろう。ただ、気になることを彼は言っている。

「伊達が、悪夢を見る回数が減ったと言っていた」

 それが何を意味するのかは、わからないけど考えてみよう。デートして見る回数が減るのなら、伊達の願望を反映した夢だった場合「恋人が欲しかった」に帰着する。そういった風には見えなかったが。もしくは第三者がそう思っているとか……。

「暁人、スコティッシュフォールドをデート中に見なかったか? 伊達の飼い猫の」

 暁人は考える仕草を見せてから、「あぁ、一度だけ見たな」と口を開いた。

「幻覚だなんて……すみませんでした」

 今更謝られても、という感じはあるが

「いいよ月影、俺気にしてないからさ」

と気にしていない風を装う。

「伊達の夢とスコティッシュフォールドは、関係があると思うんだ。だから今晩行くときには……」

 メンバーに指示をしておく。今回こそ、伊達を救い出すために。



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