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第21話

 俺は声を張り上げて彼女の名を呼ぶ。

「望月、居るんだろ? 返事をしてくれ!」

「……副部長?」

 怪訝そうな声で、でも間違いなく本人の声で返ってきた。

 手探りで電気をつける。眩しい、と感じた後に見えたのは望月と

「え……?」

 俺の姿だった。いや、どう考えても夢とはいえ同じ人間が二人存在しているのはおかしい。あれは俺ではない何かだ。

 服まで同じとなると、これはあれか。ドッペルゲンガーというやつか。俺も混乱してきたので、一度深呼吸をしてから

「お前、誰だ?」

と問いかけてみる。

「誰って……お前こそ誰だよ。俺は夢野獏。本物のな」

「副部長が二人……私は最初から、今話した副部長と一緒にいたわ。だから、今現れた方は偽物だと思うんだけど……」

 望月は、こちらに疑いの目を向けている。もう一人の俺は、「そうだ、あっちが偽物だ!」と言い張った。

「頼む望月、おれが本物なんだ! 信じてくれ!」

「信じられるはずないでしょう。私たちはずっと、一緒にいたわ」

 望月はこちらから距離をとり、偽物の俺と腕を組んだ。洗脳されているらしい。

「だってよ。お前、人望ないなぁ。望月一人ですら救えないなんて」

 嘲笑うように偽の俺が言う。俺はこんな風に笑えない。少なくとも、このままだと俺に勝ち目はなさそうだ。

「きゃあっ!?」

 望月を殴ってみる。その行動には当然意味があり、彼女を気絶させるという目的もあった。偽の俺が驚いたかのように目を見開いている隙に、望月を奪還する。

「凄いなお前。普通、こんなとこで仲間殴らねぇよ。だから、お前の姿を借りるのはやめにしよう」

 偽の俺は、光に包まれて姿を変えていく。最終的にそこに立っていたのは

「清水時雨……!」

 そうだろうと思ってはいたが、いざ現れるとやっぱり少し怖い。

「望月ネルミはいずれ俺のものにしてみせる。俺以外の誰にも渡す予定はない」

 獲物を狙う肉食獣のような瞳には、威圧感があった。

「だから、夢野獏。ここで決着をつけようか」

 マズい。非常にマズい。ここで戦っても勝てるビジョンが見えない。

「……その前に食ってやる」

「出来るのか? お前ひとりの力で」

 挑発的な時雨に、動じない冷静さを取り戻せた。

「やってやる。俺はドリーム・イーターズのリーダーだからな」

 そう言うが早いか、時雨に蹴りを入れようとする俺。しかし躱され、逆に相手から何かを注射されてしまった。何だこれ……胸がきゅんきゅんするようなこの感情は、確かに覚えがある。これは、咲夜に抱いたのと同じ——

「俺の武器はこの恋愛毒素だ。お前はどれくらい耐えられるかな?」

 ハート型の注射器には、蛍光ピンク色の液体が入っている。これ全てを注射されたら、勝ち目は本当にないだろう。短期決戦でいくしかない。

 蹴る、殴るしか出来ない俺だが勝てるのだろうか? いや、勝つんだ。

「クソッ! 避けんな!」

「避けないほどお人好しじゃねぇよ」

そしてまた液体を注射されてしまう。対人戦に慣れていないのが裏目に出すぎている。

「……もう、俺の野望を邪魔しないと誓えるか?」

注射器片手に時雨は問う。

「あぁ……」

 時雨は、ニヤリと笑う。今この世で、自分が最強であるとでも言うように。

「と、でも言うと思ったかこの野郎!」

 俺は時雨の足を掬った。

「な、何!? 何で効かなかったんだ!?」

「俺にも詳しい理由はわかんねえ……ここに来るまで、咲夜の処理しきれなかったモンスター食っといたせいかな」

 望月にもっと演技指導して貰えばよかったなどと思いつつ、時雨の鳩尾も殴っておく。

「がはっ……!」

 時雨は苦しそうに呻いている。後は夢を食うだけだ。

「く、くそっ……こうなったら、夢ごと爆破してやる!」

 最後の足掻きだとでも言うように、時雨は叫んだ。そんな莫大なエネルギーを呑み込んでしまえば、俺にも何か後遺症が残るかもしれない。どうしたら良いんだ。その時だった。

「ごめん獏、遅れて」

「……やっぱり貴様だったか。清水時雨」

 咲夜と暁人が来た。月影も珍しく夢の中に介入してきて、ドリーム・イーターズが勢ぞろいした。

「皆、理由は後で説明するから力を貸してくれないか?」

「もちろん!」「ああ」「わかりました!」

 気絶して返事のない望月からは、勝手に力を借りた。俺たちは手を繋ぎ合わせ、巨大なエネルギーから成る獏を出現させる。そして、時雨を呑み込んだ。

「食らったぞ——この悪夢」

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