零時。結局解決策が思い浮かばないまま、望月救出の時刻になった。
「夢野くんは途中で抜けちゃったので、詳細を知りませんよね。今回の夢はですね……恋の夢です。思いを寄せていた相手に振られ、悲恋に打ちひしがれた夢の主……望月さんを、自殺しないようにサポートする必要があります」
「なるほど、つまり望月をとっとと探して食えば大丈夫なんだな」
「そうだが……夢野、夕方から思ってはいたがきちんと頭は冷えているのか? いつものお前らしくもない」
暁人がこちらを見て問いかける。確かに、頭に血がのぼっている感じもある。
「とりあえず、行きましょうか!」
一人欠けた点呼をとり、俺たちは目を閉じた。ここまではいつも通りだ。月影の先導で、望月の夢に入り込む。
そこは、劇場になっていた。元演劇部員の望月らしいといえばそうだが、とにかく広い。望月はまだ、演劇の夢を捨てていなかったのか。それとも————
「とりあえず、探そう! 敵はどこにいるかわからないから、固まって動こう」
俺が物思いにふけっている間に、行動は始まっていた。俺も慌てて皆についていく。
「それにしても、新築みたいに綺麗だな」
席に座ってみると、ふかふかとした感触があった。まだ誰も座ったことが無いような、新品にそのまま腰掛けたような感覚だ。
「そんなことより、望月を探すぞ。時間は限られているんだからな」
暁人に窘められ、俺たちは劇場の裏側へと向かった。そこは倉庫で、沢山の衣装や小道具がしまわれている。望月はここに居るのだろうか?
あまりそういった気がしなくて、俺は皆がここに熱中している間にこっそりと地下への階段を降りた。薄暗さが、ただの暗さに変化する。今は明かりが無いから、目を慣らさないといけない。
と、そこにモンスターが現れた。ハート形の見た目をしたそいつらは、真っ先にこちらを目掛けて突進してくる。
「えいやぁ!」
咲夜がホッチキスを巨大化させ、モンスターを綴じていく。モンスターは歩くことが出来ず、その場に倒れ込んだ。
「……おかしいな、こんなの夢の情報にはなかったはずだが……」
暁人が言う。そうだったのか、ではこいつらは何のために生まれたのだろう。一人で考えても仕方がないので向き直ったら、そこにはモンスターの大群が居た。
「ちょ、ちょっとこの数は私捌けないよ!」
慌てる咲夜に
「デコレーター!」
と、暁人が能力を発動させた。巨大な檻の中にモンスターは閉じ込められる。しかし、一回に使った精神力が多大だったせいか、二人はその場に倒れ込んだ。
「ごめんね……」
「すまない、夢野。ここから先は一人で先に行っててくれ。すぐに追いつく」
大きな注射器が見えた。月影だ。
「私が二人についてます。だから、夢野くんは望月さんを探してください」
「わかった」
「ところで、何故望月さんがこうなってしまったんでしょう? 私たち五人の中でなら、まずリーダーを潰すとか言って夢野くんが狙われてもおかしくなかったのに」
俺も思ったことだ。やはり、他にも同じことを考えてるやつが居たのか。俺は頷くと、
「望月にしかない何かを狙ったんじゃないか?」
と口に出してみる。
「夢……ということは、能力か?」
暁人の推察に、再び頷く。恐らくこれは、望月の変身能力を狙った犯行だ。そして、そんなことが出来るのは以前「能力は調べた」と言っていた
「清水時雨か……」
場の空気が一気に引き締まった。いつかは倒さなければいけないが、今はまだ太刀打ちできない相手。
「本当にそうなのかな……」
咲夜は懐疑的だが、残り二人は納得がいったという雰囲気を漂わせている。咲夜はそれにつられて、「まぁその可能性もなくはないか……」と賛成派に回った。