夢が崩壊したのだとわかるのに、数秒かかった。現実世界の俺は当然濡れてもいないし、溺れた形跡などない。
……やってしまった。何が一世一代の告白だ。確かに咲夜は信頼できる仲間だし、幼馴染だからって……そう言う気持ちが全くない訳ではないが。
咲夜の方を見ると、ぼーっとした顔をしていた。
「おい咲夜、大丈夫か?」
一応声をかけてみる。
「大丈夫、でも溺れてからの記憶が全然ないんだよね。とりあえず、死ななくて良かった」
嘘だろ、とは思いつつもそう言うことにしてくれるならその気持ちに甘えよう。月影や他の仲間には聞こえていただろうが、皆そこまで野暮ではないだろうし。皆、良い奴だ。
「どうしたの獏、ぼーっとして」
咲夜が俺に近づいてきた。夏場だからか露出の多い私服はそれだけでも胸の鼓動が早くなる。
「別に何でも、皆無事で良かったって思っただけだ」
視線を逸らすと、鼓動も収まってきた。暁人にも望月にも、恋心がバレてしまったのは恥ずかしいが咲夜の無事と引き換えれば安いモンだ。
「そうね。本当に……私が一番危なかったけど」
珍しく泣き言を言わない咲夜に驚きつつ、「そうだな」と返しておく。
「でも獏が居なかったら、死んでたかも。私」
「大丈夫だって。月影の仕事は俺たちの救出なんだぞ? 簡単には死なないし、俺が死なせねーよ」
そうだ。この中の誰も死なせず怪我もさせずに引っ張るのが俺の役目。ドリームイーターズのリーダーである夢野獏の役目。改めてそう認識する。
「頼もしいな、獏。ところで、そろそろ一息ついたらどうだ」
おじさんがホットミルクを用意してくれていた。俺たちはテーブルに移動し、一口それを飲む。柔らかな味わいで、安心感がある。
「おじさん、今何時?」
「二時だ。帰るか?」
あっという間の二時間だった。ここまで濃い二時間は、ドリームイーターズを結成してから初めての経験だ。
「これ飲んで帰るよ。いつもありがとな、おじさん」
「ありがとうございます~!」
その後も皆が便乗し、礼を言った。しばらくしてホットミルクを飲み終えると、解散になった。
俺は咲夜の横を歩く。本当はこの流れで手を繋いだりしたかったが、覚えていないということになっている以上難しいだろう。無言のまま別れの時間が迫る。
「ねえ、獏」
「何だよ」
珍しく咲夜の方から話しかけられた。朝には雨でも降っているのだろうか。
「私も、獏のことは好き。でも、もう少し心の準備をさせて欲しい……じゃ、駄目かな」
いきなりすぎて、また思考が停止した。つまるところ、それって両想いってことで——ああ、もう! 素直じゃないなお前!
「いい、けど……やっぱ覚えてたんじゃねーか」
「当たり前でしょ? 皆が居て恥ずかしかったから、さっきは忘れたことにしようとしたの」
夢の中の内容を忘れることなんて今までなかったから、当たり前だが……。恥ずかしい。顔から火が出るというのは、こういうことか。
少しだけ変化した関係性。近づくお互いの家。
「じゃあ、また朝にね」
「おう」
俺は、自分の家に入った。