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第14話

 プール、と言ってもそれは学校のプールだった。着水する時は気をつけて、という月影の声が心なしか聞こえた気がするが、気のせいだろう。

夢の主は、もうプールの底に沈んでいる。早く助けないといけないが、どうすればいいのか見当がつかない。

「これで、救えるかな……?」

 咲夜が取り出したのは、巨大な虫取り網。家にあったのが、恐らくそれくらいしかなかったのだろう。

「やってみよう!」

 咲夜は虫取り網をプールに着水させる。すると、咲夜ごと水の中に吸い込まれてしまった。足掻く咲夜に手を伸ばしてやりたいが、そんなことしたら二の舞になるのは確実。そう思っているうちに、咲夜は吞まれてしまった。

「どうしようか……」

 夢の主が溺死するまでというタイムリミットもキツい。もうあまり時間は無いだろう。ここは一か八か、俺が直接夢の主を食いに行くしかない。

「皆、俺に何かあったらその時は任せたぞ!」

 そう言い残し、俺はプールに飛び込んだ。底がないのかと思うくらい深く、また無数の触手が夢の主と咲夜を絡めとっている。やるしかない。俺は触手に接近し、まずは口を出現させる。そして、そこから一気に触手ごと食った。


***


 暗転。息が出来ない。苦しい。水が、肺の中に入り込んでいる感覚がある。冷たい。苦しい、しぬ——

「夢野くん!」

 月影の声で引き戻された。あまりにも実感がなくて、月影の顔に触れてみる。本物だ。溺れていた咲夜には、今望月が人工呼吸を行っている。夢の主は食ったから直に夢は消滅するはずなのだが、今はその状況が喜ばしくない。いざとなれば何とかできると思うのだが、いや、思っていた。月影が咲夜を治せていないこの現実を直視するまでは。

「咲夜は……ゲホッ……なんで……」

「私も頑張ったんですけど、何故か意識を取り戻さなくて……多分、無意識のうちに起きることを拒んでいるのかも」

「何でだよ!」

流石にそう言わざるを得ない。

「咲夜、そんなに夢は嫌か? お前がいなかったら存続してねーよこのチーム」

言葉は止まらない。

「それに、小さい時からお前と過ごしてて結構楽しかったのに……お前は違ったのかよ?」

「違わないわよ!馬鹿!」

 顔を真っ赤にした咲夜にビンタされた。いや、今ビンタするのは俺の方じゃないか? 別にいいけど……。

「私、ずっと不安だったの。このチームに入って、上手くやれてるかどうか。今日だって溺れて迷惑かけちゃったし。でもね、気づいたの。皆が支えてくれるから、気負い過ぎることはないんだって」

 咲夜の頬を涙が伝った。感情が昂っているのか、声も上ずっている。

「ねぇ、獏。言いたかったことってそう言うことなんだよね?」

 思考の停止。確かに、言いたかったことにはそれもある。ただ、他にも言いたいことは山積みで。それをここで伝えるかどうか、迷っているのだ。もう時間がない。どうする。

「……それもそうだし、俺はお前に生きていてほしい。だって、好きな人には生きていて欲しいから」

「え、今なんて」

 茹で蛸の様に真っ赤な咲夜。俺の顔面も赤さなら負けていない自信がある。一世一代の告白だ。

「だから、お前のことが好きだって言ったんだよ」

 咲夜は完全に泣き出してしまった。女子を泣かすと言うのは、どうも心持ちが悪い。

「おい、泣くなって」

そう言い咲夜に手を伸ばした瞬間、暗転した。


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