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第13話

 放課後、先生は有言実行でやって来た。

「お邪魔します、これがミステリ研究会の部室ですね」

 五人とも息を呑む。これが上手くいかなければ部室は没収。全てが今に懸かっている。

「じゃあ、今日の題材からいきましょう~! 今日の題材は『女子高生連続怪死事件』です! この事件は……」

 月影が部長らしく事件内容を読み上げていく。俺は片耳でそれを聞き流しながら、チラチラと先生の様子を伺う。今のところ、問題はなさそうだ。望月の圧倒的な演技力、元から頭の良さそうな——実際良いのだが——暁人、真面目そうな咲夜とメンツが良いからだろうか。

「じゃあ夢野くん、この事件についてどう思いますか?」

「ん? あぁ、そうだな……」

 後は俺がボロを出さない様にするだけだ。そうすれば確実に、イケる。

 部員全員が意見を言い終わったところで、先生が口を開いた。

「この事件は何年も昔、ニュースで取り沙汰されまくって有名になりました。皆さんは、怪事件を追いかけるのが好きなのですか?」

「はい」

 頷く。本当は好きでも何でもないが取り繕っておかないと。


 無言の間がしばらく続いた後、先生は言った。

「……良いでしょう、小生が顧問になります。この部活の。小生で良いのなら、ですけど」

「よろしくお願いします!」

 反射的に頭を下げていた。他の部員も俺の勢いに圧されてか、頭を下げる。

「では、小生の方から手続きをしておきましょう。皆さんは部活を続けていてください」

 先生はそう言い残し、部室を出ていった。


 俺たちは、全員息を吐き出した。慣れないことをするのは疲れる。今日ほど緊張感のある嘘をついた日もないだろう。

「でも良かった。これでもう北条さんに何か言われることはないんだね」

「咲夜、知り合いだったのか?」

 咲夜の発言に、些細な引っかかりを覚え訊いてみる。

「いえ、向こうは私のこと知らないと思う。彼女は生徒会で有名な暴君なんだよ。あんまり言うと気負っちゃうかもと思って、言わないようにしてたけど……。まぁでも、もう終わったことだし関係ないよね」

「そうだったのか……」

 夢の中では、とてもそうは見えなかったが。彼女も気負っているということなのか。

「あ~! もうこんな時間、そろそろ資料を片付けて今日の夢の共有をしましょう!」

 月影が時計を見た。時刻は五時を過ぎている。意外と長いこと先生は滞在していた様だ。俺たちは資料をまとめて机の隅に寄せ、タブレット端末を注視する。

「今日の夢は、プールで溺れる夢です。夢の主が溺死しないうちに助ける、これが任務の内容です」

 月影の説明はいつも簡潔だ。いや、簡潔すぎる。

「なあ、何で溺死するんだ? あがってくりゃいい話だろ」

「多分、底なし沼状態なんだと思います。それか、足を引っ張る何かがいるとか。皆さん、着水する時は気をつけてくださいね」

 想像力は働くんだよなぁ、月影……。確かにその可能性は高いので、気をつけておくことに越したことはないだろう。

「わかった」

「では、今晩また月谷さんのお店に零時集合でお願いします~!」

 解散になった。資料の返却はくじ引きの結果俺が行うことになったので、重たいそれらを持って図書室へ向かう。

……遠い。ここは七号館、図書室のある一号館は一番離れている。歩けば二十分はかかる。やってられない。だが、休んだらもう動けなくなる気がしたので足を前に動かす。無心で歩いたその先に、図書室はあった。ただ、図書室そのものは閉まっていたので返却ボックスに資料を置いておく。これで作業終了だ、帰ろう。

正門まで行くと、よく見慣れた姿があった。

「咲夜、どうしたんだよ?」

「暇だから待ってたんだよ。一緒に帰らない?」

 二人だけの空間。咲夜の横顔は、大人びて見える。——あれ、こいつってこんなに美人だったかな……。一つ結びの黒髪が、鮮やかな橙色を映している。

「どうしたの? 帰ろうよ」

「あ、あぁ。おう」

 正直、咲夜にこんな感情にさせられるとは思ってなかった。何かが湧き出て止まらない。この感情を何というか、わかるようでわからない。奇妙な感情だ。

 顔を見ていられなくて視線を逸らす。こいつ、意識したことなかったけど胸大きいな……。歩きながらそんなことを考えていると、向こうから言葉が紡がれた。

「ねえ、私『ドリームイーターズ』の役に立ててるかな?」

「どうしたんだよ急に」

 浮かれていた自分を律する。そうだ、あくまでも俺たちは幼馴染で、それ以上でもそれ以下でもない。

「私が居なくても、このチーム大丈夫なんじゃないかって……昨日も全然役に立てなかったし」

「気を落とすなよ、毒の時なんてお前なしだったら何も出来なかったぞ」

 あの時の咲夜の勢いは凄かった。毒を散らし、安全な空間を作り出したのだから。

「でも、結局トワイライト・ゾーンは逃がしちゃったし……」

「それは俺たち全員のせいだから、自分を責めるな」

 あの時遭遇した清水時雨が、奴らの中でどれほどの地位なのかはわからない。雑魚なのかもしれないし、重役なのかもしれない。それでも、向こうが痺れを切らしてきていることは事実だ。俺たちのしていることは、間違っていない。正しい方向に物事は進んでいる。

「じゃあ、私ここだから。気をつけて帰ってね」

 咲夜の家は、俺の家の三軒隣だ。そこまで離れていないが、咲夜はいつも心配してくれる。根が優しいのだろう。

「おう、お前も遅刻すんなよ」

 そう言い背を向け自宅へと入った。

「ただいまー」

「おかえり、獏。今日は授業中寝てないでしょうね?」

「寝てねーよ」

 手洗いうがい、自分の部屋。すぐに出てくる夕食。一度風呂を済ませると、ゲーム……したいが勉強の時間だ。普段授業中によく寝ているから、遅れを取り戻さないといけない。以前だったらゲームできたのに、これも全部トワイライト・ゾーンのせいだ。

 毎日このルーティーンで、気がつくと零時近くになっている。おじさんのカフェは近いので、こっそり家を抜け出し向かう。咲夜も大体同じ時間に行動しているが、今日は珍しく会わなかった。

 それでも、潜入する時には居たので単に時間がズレただけだろう。いつも通り手を重ね合わせ、解く。そして目を閉じる。幻想上の空間に入り、月影によって夢まで案内される。


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