半分寝ながら午前の授業を終え、昼休みに突入した。俺は月影と共に職員室に行き、「浅野せんせーい」と彼を呼び出す。
「待ってましたよ、月影さんも一緒ですか。ご用件は勉強のことではなさそうですね」
察しが良くて助かる。単刀直入に俺は切り出した。
「浅野先生。俺たち、ミステリ研究会の顧問になってくれませんか」
「ミステリ研究会?」
オウム返しされるのも無理はない。実情と上っ面が全く異なる集まりだ。怪しまれても仕方がない。
「それって、どんな活動をしてるんですか」
「謎の怪事件について考えたりしてます~!」
月影は堂々と嘘を言う。本当にそんなことをしたことは一回もない。だが、ここで先生を逃すわけにはいかない。
「小生に、その顧問をしろと」
「……駄目ですかね?」
普段は弱々しい雰囲気なのに、こういう時には威圧感がある。嫌いじゃないけどやっぱり怖い。
「……良いでしょう」
「やっ」
「ただし、それは小生が一度部活をしているところを見てからです。何曜日に部活をしていますか?」
俺たちの歓声は打ち消された。事態はマズい方向に傾き始めている。だって実際、説明した内容で活動したことなど一度もないのだから。
「あ、えと、今日の放課後……」
何とかそれだけ絞り出す。これが終わったらすぐ皆に事態を伝えないと。
「わかりました、行きましょう。場所は何処ですか?」
「七号館二階のA教室です」
「了解です。では、一度解散にしましょう。二人とも、お腹が空いたでしょうから」
職員室から出ると、一気に疲労が押し寄せてきた。俺たちは急いで部室に移動すると、扉を開けた。
「遅いぞ、夢野」
暁人は食後のデザートなのかわからないが、菓子パンを頬張っている。
「仕方ねーだろ、顧問の掛け合いに行ってたんだから……」
「そうですよ、それに今日視察が来るんです! だから何となくでも『ミステリ研究会』として活動してる姿を見せないと……!」
月影の焦る姿は珍しい。流石に皆非常事態だと思ったのか、背筋が伸びた。
「そうは言っても、ミステリ関連のことなんて私疎いし」
と咲夜。
「私もよ、安心して星川さん」
これは望月。安心する要素など何処にもないのだが……。
「落ち着け、一度誤魔化せれば良いんだろ? なら、図書室で僕が本を見繕ってこよう。それで何とかなるはずだ」
暁人はそう言うと、菓子パンを咥えながら図書室の方角へ向かい走り出した。器用な奴だ。頼りになる。
「じゃあ、今日の放課後だけはそういうことで! よろしくお願いします~!」
月影のその一言で解散となった。