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第11話

 いつものように朝が来た。

 俺と咲夜は何気ない話をしながら登校していた。学校の門の前で、北条の姿を見るまでは。

「おはよう。あら、あと三日よ? 顧問は見つかったのかしら」

 いつも通りの北条だった。心配した俺たちが馬鹿だった。そうだよな、あんな非現実的な現象を信じるなんてそっちの方が馬鹿だ。

「顧問については、今日あたり話に行こうと思ってたんだよ。俺の担任にな」

「あら、そう。部室が没収されないと良いわね」

 この反応は意外だった。もっとつっけんどんな対応をされるかと思っていたから。

「お前、意外と良い奴だな」

 そう言い俺は門をくぐった。北条はぽかんと口を開けていて、案外表情のレパートリーに富んでいる。

「浅野先生! おはようございます」

 そして、遅刻ギリギリで教室に入ると俺は目的の人物に話しかけた。

「夢野君、駄目じゃないですか。遅刻寸前ですよ?」

 寝ぐせ頭の人間に言われても、とは思うが仕方がない。それが浅野環希だ。

「すみません、それで昼休み空いてますか? 話したいことがあって」

「貴方はまるで人の話を聞いていませんね。まあ、いいでしょう。空けておきます」

 先生は眼鏡の位置を直すと、「席についてください」と生徒を窘めた。


 浅野環希。今年から入った常勤講師。担当教科は現代文。一人称は「小生」。優秀な人材ではあるはずなのだが、どうも個性が強く生徒受けは良くない。一方で礼儀の正しさから、先生間の評判は良いらしい。寝ぐせ頭に眼鏡、赤いチェックシャツなんて言わずともオタクを——それも古の——を名乗っているに等しい。まだ二十三歳なのに。ちなみに彼には双子の弟が居て、そちらは大手中学受験塾の講師として働いている。勉強大好きなのか、兄弟揃って。理解できねー……。

先生について考えていると、目があった。この人は、人からの目線を感じやすいのかいつもこうだ。見ていると必ず目があう。それ以上のことは起きないから、別に構わないのだが。俺はこの先生のこと、嫌いじゃない。欠伸をしながらそう思った。癖は強いけど。



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